四千万円のお勘定

 

表面に不思議な輝きのある錫で出来たぐい呑み。高岡の名産だという。名前入り!

 

Rさんが僕にお土産をくれた。ひとつは「鱒の寿司」だが、もう一つは、「能作」という富山県のメーカーが作った、錫で出来た「ぐい飲み」。ずっしりとしており、表面が微妙にキラキラ輝いている。

「せっかくだから使ってみたら?」

Rさんの奥さんが言う。僕は、包みを開けて、その中に吟醸酒を入れてもらった。金属だけあって、涼しい口当たり。よく見ると僕の名前が彫られていた。三日後、僕は金沢駅の土産物コーナーにいた。海産物、和菓子、輪島塗の食器、地酒など、石川県の特産品が並んでいる。その中で、僕はRさんがくれたのと同じ「能作」のぐい飲みを見つけた。値段を見てびっくり。

「ありがとう、Rさん。」

僕は改めてつぶやいた。

 「一掬」に入ったときから、僕は壁に掛かっている額が気になっていた。それは、「切り絵」のように見えた。帰り際、僕はご主人に聞いてみた。

「これ、切り絵ですか?」

「はい、バランです。私が作りました。」

「バラン?!」

あの、寿司の間に入っている緑色の仕切りである。よく見ると確かにバラン。

「ご主人、寿司職人だけでなく、切り絵職人でも生きて生けますよ。」

それが僕の正直な気持ちだった。

 Rさんの奥さんが、Rさんと僕を富山駅まで送ってくれた。金沢行の新幹線まで、まだ三十分ほど時間があったので、軽くもう一杯。焼鳥屋に入って、串カツと焼鳥で、Rさんはビール、僕は焼酎のロックを飲む。

「この店、覚えてる?」

Rさん。

「うん、金沢にもあって、大学の頃よく行ったよね。ここの店員さん、会計が五百円なら『五百万円』、二千円なら『二千万円』って言わなかったっけ。」

「そうそう。」

各自一杯ずつ飲むと、金沢行の列車が出る時刻になった。今度は僕が払うことになっていた。

「すんませ〜ん。お勘定お願いします。」

僕は店のお姉さんに言う。

「は〜い、四千三百円で〜す!」

伝統は受け継がれていた。

 

「一掬」のご主人と、奥さん。後ろのネコちゃんはバランで出来ている。

 

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