不思議なお寿司屋さん
「一掬」さんで、Rさんご夫妻と。どんな寿司が出て来るか楽しみ、楽しみ。
次に向かったのは、「一掬」(いちぎく)という寿司屋だった。ここが不思議なお店。木造の小さなお店。
「あれ?暖簾が出てない。」
と思う。中に入って更に驚いたのは、その日は「貸し切り」だったこと。客はRさん夫婦と僕の三人だけ。カウンター席に座る。厨房には店のご主人と奥さんがおられる。ご主人は四十歳くらい、結構若い人だ。
「ねえねえ、ここって、いつもこれだけしか、お客さんを取らないんですか?」
とRさんの奥さんに小声で聞いてみる。
「そうなんですよ。毎晩お客さんは一組か、多くて二組。それ以上になると、断られるんですよ。」
「へえ、そんな戦略の店もあるんだ。」
多くの店が、出来るだけ多くの客を入れて、回転数を上げようとするなか、一晩に予約した数人のお客で勝負するとは。よほど料理に自信がなければできない業である。
「それで、暖簾が出ていなかったんだ。つまり、暖簾で、一元客を呼ぶ必要がないから。」
まず、付け出し数品が出てくる。モズクが出てきたが太い。ヒジキかと思った。
「スーパーで売ってるのは養殖物なんですが、天然のモズクってこんな風に太いんですよ。」
とご主人。一発目から、かなりインパクトがある食材。
それから一時間ぐらいかけて、寿司が一貫ずつ出て来る。本当に厳選された食材って感じ。その都度、ご主人から簡単な説明があるし、こちらが質問すると、丁寧に答えてくださる。僕は、ミュージシャンのトークを思い出した。僕のピアノの師匠であったドイツ人のVさんは、有名なコンサートピアニストでもあったが、リサイタルの時、曲と曲の間に、「トーク」を入れた。それが彼のスタイル。曲にまつわるエピソードなどを聞きながらえ聴くと、余計に、その曲の味わいが深まった。「一掬」のご主人には「トーク」があった。出されるネタを見て、
「同じ北陸でも、富山と石川では出て来る魚が違う。」
とまず思った。その感想をご主人にぶつけてみると、
「石川は、能登半島に直接外洋の海流が当たるので、『外海』の魚が多いですし、富山は湾になっているので『内海』の魚が多いんです。」
とのこと。なるほど。しかし、どのネタも厳選されており、非常の質の高い味を楽しむことができた。特に気に入ったのはアジ。アジってこんなに味が濃くて、いい歯応えで、生で食べても美味しい魚だと思っていなかった。
富山市から見る立山連峰は素晴らしい。(富山観光ナビHPより)