トイレの話
当時の駅伝チーム。前列左端が僕。
ビヤホールで、隣の席の若者に頼んで、全員の写真を撮ってもらった。
「僕たち、大学で駅伝の選手だったんです。」
と言ったら、驚かれた。
「わあ、こんなところで、そんな人たちに会うの、信じられない。感激!」
と言われてしまった。まあ、青山学院大や駒澤大の元選手なら感激されてもいいけど。地方の弱小チームだったからね。
「Mさん、アレンジしてくれてありがとう。」
Mさんは僕のブログを見て、三か月前にメールをくれた。本当に突然で驚いた、彼が豊橋に住んでいると聞いたので、東京の帰りに豊橋か名古屋で会おうと決めた。そうしたら、彼が、他のメンバーにも声をかけ、連絡、レストランの予約などをやってくれたのだった。
「次は四十年ぶりじゃなくて、もう少し早く会えるといいね。」
そう言って、八時半ごろ解散。
京都へ帰る僕と、大阪に帰るKさんは新幹線のホームに向かった。Kさんはホームの売店で、ハイボールの缶を買っている。
「よう飲むなあ。」
陸上部の伝統は受け継がれている。
建築家のKさんは、大阪万博のシーズンチケットを持っているという。
「そうか、今、大阪で万博やってるんや。」
そう思ったが、「行きたい」という気持ちは全然起きなかった。
建築家のKさんは、万博のような公共施設での「ジェンダーレス・トイレット」(男性でも女性でも使えるトイレ)の研究をしているという。
「カワイさん、イギリスでは『ジェンダーレス・トイレット』って普及していますか。」
とKさんの質問。
「いいや、全然。」
そもそも、僕は、男性でも女性でも入れるトイレの必然性について、全然理解していなかった。
「身体は女性だけど心は男性、身体は男性だけど心は女性、いわゆる『性別不合』の人たちのためなんです。」
「ふ〜ん。すごくきめ細かい配慮やね。」
京都までの約四十分間、僕たちはトイレの話をしていた。京都駅で僕は降り、Kさんはそのまま大阪に向かった。
「ほな、また近いうちにね。」
全日本大学駅伝でゴールする僕。