まだ走ってる?
名古屋駅、新幹線側の待ち合わせの目印は「銀の時計」。反対側の出口に「金の時計」もある。(同駅HPより)
五時十五分前に待ち合わせ場所に行くと、MさんとYさんが話していた。彼らに会うのは卒業以来だが、一発で分かる。陸上部の駅伝チームの仲間って、不思議に体形が変わっていないから。同窓会などへ行くと、すごく太っていて、誰だか分からない同級生にときどき会うが。
「ジャジャ〜ン。こんにちは。」
と言って二人の前に顔を出す。
「カワイさん、どうしたんですか。グラサンなんかして。チンピラに絡まれたと思ったじゃないっすか。」
とYさん。
先ほども言ったが、大学卒業以来一回も会ってない。つまり四十年ぶりなのである。でも、何時でも何処でも、滑らかに会話に入っていける、これが「昔同じ釜の飯を食った仲」ゆえん。陸上部では年に何度か合宿練習があり、特に秋から冬の駅伝シーズンになると、駅伝チームは頻繁に合宿をした。そこで、僕たちは文字通り、「同じ釜」から飯を食っていた、つまり、寝食を共にしていたのである。
間もなく、大阪からわざわざ来たKさんも到着。地元民のMさんが予約しておいてくれた、名古屋駅近くの「海鮮居酒屋」で、宴が始まった。
「再会を祝してかんぱ〜い!」
全員が、元長距離選手なので、
「まだ、走ってる?」
という話が出る。皆六十代。何と、Kさんは昨年フルマラソンを完走したとのこと。
「すごいな〜」
「でも、もう五時間近くかかる。」
とKさん。彼は昔、現役時代、二時間台でマラソンを走っていた。今は倍の時間がかかっているとは言え、六十数歳で、四十二キロを走れるのは驚嘆に値する。自分も何回かマラソンを走ったことがあるだけに、レース前の数か月にわたる地道な練習、怪我との戦い、レース中の苦しさ、そして、ゴールしたときの達成感などはよく分かる。
一緒に練習したこと、試合に出たことも思い出だが、それ以上に、飲んだことが頭に残っている。試合の後など、ハンパない量の酒を飲んだ。僕も大ジョッキ六杯とか。その日、Mさんの予約した居酒屋は二時間で「飲み放題」だった。それを、聞いたKさんとYさんは、気合が入ってきた。「生中」と「ハイボール」の注文が、十分に一度、注文用のタブレットに入力され、三分後にはお姉さんがそれを持って現れる。
「走るスピードは年齢とともに落ちても、飲むスピードは変わらない。」
二時間の飲み放題時間が終わって会計を済ませた後も、僕たちは別のビヤホールに入って、またビールを飲み続けた。
元駅伝選手のおじさんたち。走るスピードは落ちても、飲むスピードは変わらない。