走った後のビール

 

神宮球場。プロ野球の本拠地にしては結構ショボい外観。

 

東京での二日目、僕は昼まで寝ていた。日本に着いてまだ五日目。時差ボケがあるし、前夜遅くまで騒いでいたし。台風が接近しているらしく、夜半からかなりの雨が降ったよう。僕が起きたときは、まだ町は霧雨に煙っていた。ホテルは「一ツ木通り」に面した繁華街のど真ん中。ホテルの斜め向かいにはTBSの建物がそびえている。ホテルの周辺には、飲み屋、食べ物屋が並んでおり、昼食を食べる店には事欠かない。いや、選択の余地が多すぎる。

そう言えば、昨夜ホテルに戻るとき、「セーラー服を着たおばさん」に声を掛けられた。どう見ても三十歳は超えている女性なのだが、ミニスカートのセーラー服姿。異様な光景。東京は本当に「何でもあり」の場所なのだ。

「東京は、ばりおそろしかとこたい。」

何故か博多弁になる。

「ちょっぴり淋しい乃木坂 いつもの一ツ木通り

ここでさよならするわ 雨の夜だから」

歌いながら歩く。そう言えば、「別れても好きな人」に出て来る地名に昨日からよく出会う。渋谷、赤坂、原宿、乃木坂・・・結局、なぜか「讃岐うどん」で朝兼昼食。

 二時に、ホテルにHさんが訪ねて来てくれた。彼と会うのは二十年ぶり。大学の陸上部で一緒に走っていた仲。元々兵庫県の人だが、今は東京で単身赴任中。一緒にカフェに行き、彼は昼食を取り、僕は飲み物を頼む。陸上部の仲間に会うと、まず相手に聞くのは、

「まだ走ってる?」

ってこと。

「二年前に心臓の手術をしてから、もう走ってない。水泳と馬の世話はやってるけど。」

と僕。Hさんは、何と、僕と全く同じ心臓の手術をして、しかも、まだ走っていた。地元の走ろう会で日曜日の朝に練習しているとのこと。

「練習の後、皆でビールを飲むのが楽しくて。」

Hさん、

「えっ。でも、練習は朝なんでしょう?」

不思議に思って尋ねる。

「そうそう、午前中に陸上競技場の芝生の上でビールを飲むの。家に帰って昼寝をしたらもう夕方ってときもある。日曜日がそれでつぶれちゃうんですよね。」

「ゲ、ゲ〜。それはすごい。」

でも、走った後のビールはメッチャ美味く、病みつきになる気分、よく分かる。そもそも走った後、結果的にビールが美味かったのか。それとも、美味いビールを飲むために走っていたのか。どちらが主たる目的であったのかと、今となっては考えてしまう。

 

ホテルの前の居酒屋の前で。「居酒屋」なんだから、「リーズナブル」だと思うけど。

 

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