ごはんの時間ですよ(2

 

新たに搬入された干草に群がる馬たち。運び込んだポーラとセーラ。

 

サンクチュアリの馬たちの「主食」は干草である。彼らは、起きている時間の半分以上を食事に使っている。それほどカロリーのあるとも思われない干草と、効率の悪い消化システム化で、大きいものは五百キロ近い身体を維持するには、大量に食べ続けなければならないのだ。干草だけでは栄養のバランスが悪いのか、朝と夕方に、ペレット状のホースフードが与えられる。袋に書いてある能書きによると、ミネラル、ビタミンなどが配合されているとのこと。馬たちにとって、このホースフードは、干草に比べて遥かに美味しいものらしい。小さな洗面器のようなプラスチック製の容器を円形に並べ、大きなスプーンで灰色のペレットをバケツから入れていく。バケツを持って、フィールドに出たときから、馬たちが殺到してくる。小さなポニーなら蹴散らして進めるが、人間の背丈ほどある馬が複数で自分に向かってくるともう大変。

「こら!どけどけ!あっちへ行け!」

ジュリーは、大きなスプーンで、馬の顔を力いっぱいバシバシ叩きながら進んで行く。僕にはまだまだ無理な世界。

 「夕食」の後は「デザート」。大抵はパン。近くのスーパーから、ジュリーが賞味期限切れのパンを貰ってくるのだ。ところが、このパン、いつも種類が違う。たまに、クロワッサンとかパン・ドゥ・ショコラとか、結構高価なものも混ざっている。ジュリーによると、

「前の日に賞味期限が切れたパンは、まずホームレスの人々に提供されるのね。ホームレスの人が取った残りは、町の貧しい人々に提供されるわけ。なおかつ残ったものが私たちの馬用になるのよ。」

つまり、どんなパンが賞味期限切れで残ったかの他に、ホームレスの人々と貧しい人々のその日の嗜好が、馬たちのデザートメニューに影響を与えるのである。馬たちは、クロワッサンとかパン・ドゥ・ショコラとか、ブリオッシュとか、結構脂っこいものも、平気で美味しそうにムシャムシャ食べている。

 もうひとつの「デザート」がニンジンである。昔から言う「馬にニンジン」。これも、スーパーで賞味期限を過ぎた物を貰ってくる。馬牧場はいつも結構静かなのだが、ニンジンを与えたときだけは、「コリコリコリ」とニンジンを噛み砕く音が牧場中に響き渡る。

 さて、馬の中には体の弱った者、病気の者もいる。それらの馬には「特別食」が与えられる。馬にはやはり青草が一番らしく、弱わった馬には、「乾燥した青草」を食べさせる。一見干草のようだが、色は緑色が濃い。ただ、弱い馬は物理的にも弱いので、その前に食事を置いておくと、他の強い馬が来て強奪してしまう。「特別食」は、その馬だけ厩舎の中に入れて食べさせる。もうひとつの特別食は「乾燥ナッツ」である。この中にはカルシウムが多いとのこと、妊娠している馬や、仔馬に食べさせる。

その他、牧場の柵の数か所にピンク色の岩塩が吊ってあり、馬は塩分を取るために、ときどきそれを舐めている。ピンクの岩塩って、日本では結構高いんじゃなかったっけ。

 

暇さえあれば干草を食っている馬たち。喉が渇くらしく、その後大量の水を飲む。

 

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