馬間関係(2

 

同じ厩舎で生活するには、基本的に性格の合った馬なのである。

 

しかし、馬たちの間にも、「人間関係」いや「馬間関係」の問題、「いじめ」等が存在するのである。前回の「馬牧場日記第一部」で、馬にもそれぞれ、性格、パーソナリティーがあることは述べた。人間、「パーソン」でないのに、「パーソナリティー」と呼ぶのもちょっと変だが。例えば、愛想のない馬、人懐こい馬、好奇心の強い馬、警戒心の強い馬、いつも機嫌の良い馬、機嫌の悪い馬、シャイな馬、厚かましい馬、色々なのである。彼らと上手に付き合っていくには、馬の性格を理解し、それなりの付き合い方をせねばならない。これは結構重要で、例えば、いつも機嫌の悪い馬、警戒心の強い馬に、不用意に後ろから近づくと、蹴られて大怪我をしてしまう。そして、性格が存在する以上、互いの性格の一致、不一致も存在するのである。

「いつも一緒に厩舎に入れる馬はどうやって決めてるの。」

とジュリーに聞いたことがある。夕方になると、何頭かの馬は厩舎に入れる。二、三頭が「相部屋」になる。その際、一緒の部屋に入れる馬の組み合わせは決まっているのだ。

「この子とこの子は仲が良いけど、この子とこの子を一緒に入れると喧嘩するの。」

とのこと。

「あの馬とはどうも馬が合わないわ。」

と言う、相性が馬同士にも存在するのだ。Wさんの働くデイサービスの施設でも、利用者さんの相性によって、一緒のテーブルにするかどうか、決めているとのことだった。

 シェットランドポニーのエリアは、オスが一匹で、残りの十一頭がメスという構成になっている。つまり、オスは自分のハーレムを作っているのである。これも、どうしてなのかジュリーに聞いた。ここに、もう一頭オスを加えると、オス同士の喧嘩が始まるという。

「どこの世界も、恋愛関係のもつれが、争いにつながるのだ。」

と僕は呟いた。

 次に、「校内暴力」ならぬ、「牧場内暴力」について。ある日僕が馬牧場に着くと、フィールドに居る一頭の茶色いシェットランドポニーが、周りにいる馬たちを、相手構わず、蹴りまくっている。

「えらい、荒れとるなあ。」

相手が自分より遥かに大きい馬でも関係なく、後ろ足で蹴りを入れている。よっぽど、虫の居所が悪かったのか。周囲の馬は、彼から逃げまくっている。こうなると、僕にはどうすることも出来ない。下手に止めに入ると、こっちが蹴られてしまう。僕は、彼らの、当事者同士の解決に委ねることにした。

 次は、「いじめ」について。馬牧場には、二頭の全盲の馬がいる。ヌードルとスウェーズという名前である。彼らは、二頭だけ別のエリアで飼われている。ある日、僕が行くと、その二頭が、エリアの端で怯えた様子で立っている。見ると、一頭のシェットランドポニーが、そのエリアに侵入し、二頭を威嚇しているのだった。その時は、その侵入者を外に連れ出したが。面白いのは、馬の「力関係」が、身体の大きさに依存しないことだ。小さなシェットランドポニーでも、乱暴者は、大きな馬を恐れさせている。

 

牧場への、干草と藁の搬入風景。馬たちが食料を待ち焦がれている。

 

<次へ> <戻る>