何とかしてえな

 

藁の敷き詰めてある上は暖かいのか、雪が積もらない。

 

「馬牧場日記」の続編である。二〇一八年の十一月七日から、それまで馬に触ったこともなかった僕は、皆に驚かれながらも、「セシル・ホース・サンクチュアリ」(捨馬保護センター)でボランティアを始めた。全てが新しかった。働き始めて三カ月経ったとき、その経験をまとめて、最初の「馬牧場日記」を書いた。そして、その中で、

「これは、まだまだ続くよ。」

と、続編があることを予告した。それから、三カ月、いよいよその続編が正体を現す、ジャジャーン・・・なんて、大それたものでもないが。ともかく、続きを書いてみたい。

最初の馬牧場日記を書いたのが一月、今は四月。季節は「行きつ戻りつ」を繰り返しながらも、冬から春に向かっている。これまでの人生はずっとオフィスワーク、屋外で働いたことのなかった僕にとって、今年の春の訪れはひときわ嬉しいものだった。

冬の間は三つの辛いことがあった。ひとつはもちろん寒いこと。時にはマイナスの気温の中で、毎日二時間過ごすのは、ヒートテック二枚重ねという格好をしていても、ちょっと辛い。次に、ぬかるむこと。日があまり照らないので、降った雨や雪で、牧場の多くの場所が、「田植えの前の田んぼ」状態になる。歩くと長靴がめり込むし、牧場の唯一の運搬手段である一輪車を押すのも大変。そして、三番目で、最大の困り事が凍結であった。

水道の蛇口や、バケツの水が凍ってしまうのだ。十日くらい、マイナスの気温が続いたときは、毎朝バケツの表面に、厚さ一センチくらいの氷が張った。馬たちは水を飲めない。朝牧場へ行くと、

「水飲めへんねんけど、何とかしてえな。」

というような、浮かない顔をした馬たちがウロウロしている。

「おまえら、ひづめでかち割るとか、ちょっとくらい頭を使えよな。」

と言いながら、僕はスコップでその氷をガンガンと割っていく。馬たちはバケツに群がる。そして、水を補充しようと思い、町営住宅の駐車場にある水道にホースをつなぎ、蛇口をひねるが・・・凍って水が出ない!

「どないしょう。」

最初は焦った。そのときは、一度家に戻って、魔法瓶に熱湯を詰めてきて、蛇口にチョロチョロと掛けた。最初ポタポタと水が滴り、だんだんと水流が多くなり、最後は普通の強さになった。ホースをつないでみる。しかし、数十メートル離れたホースの先からは水がでない。ホースの中の水が凍っているのである。僕は、ホースの上で、位置を少しずつずらしながら、何度かジャンプして、中の氷を砕いていった。「プシューッ」と音がして、ホースの先から水が出始めた。ああよかった!その日、作業を終えてから、僕は入念に歩ホースから水を抜き、翌日からは熱湯を入れた魔法瓶を持って家を出るようになった。

 一週間ほど経って、気温がプラスに転じ、湯を掛けなくても水がでるようになったときには、正直ホッとした。

 

白い息を吐きながら、もっと白い息を吐いている馬の世話が始まる。女性は同僚のセーラ。

 

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