壊れた洗濯機

天気が良くて、洗濯物がよく乾く日が続いた。
次は、生母のエピソードである。その朝、母は、洗濯物を手洗いしたと言って、普段より重そうな洗濯籠を抱えて、二階の物干しにやってきた。
「洗濯機が動かへんねん。この前から、ちょっと、変な音がしてたんやけど。」
「そら、しゃあないよ。もう、二十年以上も、ほぼ毎日使こうとるんやろ。ボチボチ寿命やで。」
「古い洗濯機を買うたん、確か『W無線さん』やったから、あそこに電話してみるわ。」
こんな会話の後、僕はその日午前中仕事があったので、昼まで母と話す機会がなかった。おそらく、今日は昼から家電量販店に行って、洗濯機を注文することが僕の仕事になるだろうと、思っていた。
昼に階下に降りていくと、
「新しい洗濯機、明日来るから。」
「ほう、そりゃ、メッチャ早いね。」
母の話を要約する。あさいちで、古い洗濯機を買った「W無線」に電話。即座にもう直りまへんと言われ、新しい洗濯機の購入を決断。今のものと出来るだけ同じで、機能がシンプルなものという希望を伝え、値段を交渉。十五分後には、購入手続きが終了。その後、母は銀行に行き代金を振り込み、一件落着。明朝、新しい洗濯機が届けられ、設置され、洗濯機のない不便は、たった一日で終わった。
僕は、九十四歳の母の「段取りの良さ」に驚いていた。突発的な出来事に対し、一度もパニックにならないで、論理的に考え、過去を分析し、自分の希望はきちんと伝えた上で、相手と交渉する。自分の都合で全体の流れを遅らせない。僕はSE時代、「プロジェクトマネージメント」と「カスタマーサービス」のコースに出た。その中に、「突発事故にどう対処するかという」「インシデント管理」がある。母は「インシデント管理の鏡」と言える。
もう一つの驚きは、オンラインでなくても、こんなことが出来てしまうんだという、「アナログノ強さ」「人間関係の強さ」だった。届いた洗濯機は、前のもとと殆ど使い方が同じだった。「W無線」は、二十年前に、母がどんな洗濯機を買ったか、覚えていて、似たのを探したのだ。
「この技はAIにもできまへん。」
僕もこれからどんどん歳をとっていくわけだが、その上で、ふたりの母親から学ぶことは多い。九十歳を過ぎても、常に新しいことに興味を持ち、人に頼らず、自分で生きていこうとする点は、学びたい。次に二人に会うのは、学校が夏休みに入った少し後、八月である。久々に大文字を見るのが楽しみ。でもメッチャ暑そう。二人の母は、それまで元気でいてくれるだろう。

母の家のすぐ近くにある、古い銭湯を改造したカフェ。列の出来る人気スポットになっている。