長者になるには

町中のビルは、どれも年季が入っている。大丈夫かな?
飛行機は午後五時、ヒースロー空港を飛び立ち、香港に向かう。十二時間の長い飛行。夕食を食べて、そのときワインを飲んで、睡眠剤を一錠飲んで、九時には眠ってしまう。気が付くと、朝食の準備が始まっており、残りの飛行時間は一時間半を切っていた。間もなく、香港の上空に差し掛かる。見慣れた風景。山が迫った狭い土地や、あるいは傾斜地に、高層ビルが雨後の竹の子のようにニョキニョキ立ち並ぶ風景。これまで、二十回くらいは見ている。でも、空港から外に出るのは、今回が初めて。
「楽しみ楽しみ!」
飛行機は、昼の十二時半に香港国際空港に着陸。気温は十五度くらい。意外に涼しい。英国から着てきたダウンジャケットでちょうどいいくらい。「空港市街間高速鉄道」に乗り、三十分くらいで「九龍駅」に着く。そこからタクシーに乗る。香港での宿は「ロイヤルパシフックホテル(皇家太平洋酒店)」。中国語の面白いところ、それは「酒店」が「酒屋」でなく「ホテル」を意味することだ。二十五階建ての結構豪華なホテルで、僕の部屋は最上階のスイートルームだった。
「キャセイさん、結構やるやん。」
チェックインの時に、中国語を話す。フロントのお姉さんが、
「カワイさんは、どうして中国語を話すの?」
と聞いてくる。
「五年前、うちの息子が中国人女性と結婚して、彼女は英語を話すけど、ご両親は英語が上手でないので、彼らと話すために中国語を勉強し始めたんです。」
と中国語で答える。このフレーズ、今回、十回以上使ったので、すごくスラスラ言えるようになった。ただ、これで喜んではいけない。僕の話すのは北京語。香港は広東語なのだ。全然違う。駅とか、ホテルとか、タクシーの運転手は北京語を分かってくれるけれど。その後、僕は英語も北京語も通じない局面に出くわして、苦労することになる。
ホテルに荷物を置いた後、香港の町の探索に出かけることにした。先ず、近くの地下鉄の駅に向かう。香港にも、日本の「スイカ」や「イコカ」、ロンドンの「オイスター」に当たる、公共交通機関用のプリペイドカードがある。香港では「オクトバス・カード」と呼ばれている。「タコ」の絵が入っている。まず、それを購入。六十五歳以上だと、割引がある。シニア用カードを買う。カードには「長者」と書いてあった。百万長者、億万長者、皆「長者」と呼ばれたいよね。香港に来れば誰でも「長者」になれるよ。
香港一のショッピングストリートに行ってみる。まず驚くことは、通りの両側に立っているビルが高いこと。そして、それらが古いこと。昨年、香港で高層アパート火災があり、大惨事になったが、両側に立ち並ぶ古いビルを見ていて思った。
「これならあり得るわ。」

この町の感じ、ちょっと大阪の「ミナミ」に似ている。