何とか間に合った

 

最初の授業は書初め大会。色々なクラスのお手本を書く。

 

「ぎっくり腰」になったのが金曜日の朝。翌日の土曜日は学校での授業日だった。午前午後合わせて四時間、教壇に立たなければならない。

「どないしょう。」

翌朝、僕は鎮痛剤を飲み、ロンドン行のバス停まで妻に送ってもらい、そこからバスに乗る。その日は「プライオリティーシート」(優先席)に座らせてもらう。何とか、ベーカーストリートでバスを降り、スーツケースを引っ張りながら、シャーロック・ホームズさん(の銅像)に挨拶をし、学校へ向かって歩きだす。激痛で、目の前が白くなる。

でも、学校に辿り着いた後は、思ったより楽だった。他の先生方が僕の異常に気付く。

「ぎっくり腰やっちゃって。」

と言うと、教務主任の先生が、荷物を教室まで運んでくれて、机の移動などの準備を手伝ってくれた。子供たちにも、事情を話すと、僕が動かないで済むように、色々と気を遣ってくれた。人々の優しさが身に沁みる。立ったり座ったりすると、そのたびに激痛が走り「ぎゃ〜」と叫んでしまうので、立ったまま授業をした。だが、何と、授業中は痛みを全然感じなかった。

「さすがプロ!」

自分で言うのもナンだけど。

 もう一つの問題。それは、九日後の月曜日に、長時間飛行機に乗らなければいけないということ。これに対して、僕にはある程度の勝算があった。これまで何度か「ぎっくり腰」をやった経験から、痛みは一週間あればほぼ治まることを、知っていたからだ。予想通り、飛行機に乗る日には、腰の痛みは気にならなくなっていた。しかし、眩暈と耳鳴りはまだ百パーセント治っていない。歩いていると、何となくフラフラする。常に酔っているような感じ。というわけで、僕は結構「満身創痍」な状態で、二月九日の午後、ロンドンを発って、まず香港に向かった。

「何とか間にあった。よかった。」

僕は、ヒースロー空港のラウンジで、ビールを飲みながらつぶやいた。

 英国の学校には、「ハーフターム」と呼ばれる、学期の中間休みがある。僕の勤める学校にも二週間の休みがあった。それを利用して、日本に戻ることにしたのだ。今回は、それに、「おまけ」をくっつけた。日本に帰る途中、香港と深圳に立ち寄ること。ここ数年、日本に帰る際、僕は、いつも香港乗り換えの「キャセイ・パシフィック航空」を使っている。毎回同じ航空会社を利用すると、「お得意様サービス」があり、ラウンジでただ酒を飲めたり、色々なバウチャーがもらえたり、座席がアップグレードできたりする。今回、僕は、同社から、香港での二泊分のホテルバウチャーをもらっていた。それを往路に利用することにしたのだ。

 

十二時間の飛行の後、やっと香港国際空港に到着。結構涼しい。

 

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