「それに値しなかった者たち」

ドイツ語題:Die Menshcen, Die Es Nicht Verdienen

原題:De Underkända(拒否された者)

2015年)

 

<はじめに>

 

犯人側にも捜査班側にも当てはまる「強烈な個性」と「ドロドロとした人間関係」を描き、ベストセラーとなったこのシリーズ。新たな一冊が出た。今回は、マスメディアによって作られた軽佻浮薄な文化に対し、天誅を加えようとする犯人が登場。それをいつものトルケルのチームが追う・・・

 

<ストーリー>

 

「編集長ケルマン殿

昔から貴社の新聞を読んでいるが、最近の貴新聞の取り上げる人物には疑問を投げかけざるを得ない。一言で表すと単なる馬鹿者が華々しく取り上げられている。具体的にはリアリティー番組の出場者である。無知能指数が低く、常識も無い若者にはもう飽き飽きしている。彼らは新聞に載ることには値しない。このような馬鹿げた方針を、即刻変更すること要求するものである。

敬具

大カトー」

 

目を覚ましたミレは、地下室のようなところに縛られているのに気付いた。彼は、フリーのジャーナリストと自称する男に高級ホテルに呼び出され、レストランでインタビューを受けながら昼食を取った。そのとき急に気分が悪くなり、送っていくというその男の車に乗った。そして、その車の中で気を失い、気が付くと縛られていたのだった。男はミレに対して、六十の質問をした。それはクイズ番組のようであった。しかし、ミレはそれに全く答えられなかった。男はミレに失格したと告げると、ミレの額にピストルのような物を突き付け、引き金を引いた。

ヴァーニャは、ビリーの結婚式の夜、セバスティアンに、彼が自分の実の父親であることを告げられる。彼女は最近、血液検査の結果から、これまで実の父だと思っていたヴァルデマーがそうでないことは知っていた。ヴァーニャは、これまで自分に嘘をついていたことを知り、両親と疎遠になる。同僚のセバスティアンが実の父だと分かったことは、二重のショックであった。彼女は病欠を取り、しばらく職場を離れる。

セバスティアンはヴァーニャに自分が父親であることを告白してから、ヴァーニャからの連絡を待っていた。しかし、ヴァーニャからの便りはない。また、前回の事件で知り合った、マリアとニコルの母娘とも、結局関係を取り戻すことができなかった。彼は、再び知り合った女性と一夜の関係を結ぶことで、寂しさを紛らわせていた。

ヴァーニャが相談のため上司のトルケルの事務所を訪れたとき、トルケルの机の上の電話が鳴る。ウルリスハムの学校の教室で、若い男が殺されているのが発見されたという。彼はピストルのような物で額を撃ち抜かれていた。その頭には愚か者のかぶる帽子が乗せられ、首からは札が掛けられていた。それと酷似した殺人が、一週間前ヘルシクグボリで起こっていた。事件は同一犯人による連続殺人事件の様相を呈していた。

トルケルは、捜査班のメンバーを招集する。ヴァーニャ、ウルズラ、ビリー、セバスティアンが数週間ぶりに顔を合わせる。ヴァーニャは、セバスティアンを、父親としてではなく、単なる同僚として受け入れると言う。捜査班のメンバーは、殺人事件のあったウルリスハムへ向かう。ビリーは、被害者のミレことミロスラヴ・ペトロヴィッチという名前に聞き覚えがあった。ミレは、数週間前、リアリティー番組「パラダイス・ホテル」で入賞し、素人ながら、有名人になっていたのだった。ミレの父親によると、彼は殺された日、ジャーナリストを名乗るスヴェン・カトーという男に呼び出され、インタビューに出かけたという。

トルケルたちの捜査班は、ウルリスハムに入る。殺されたミレことミロスラヴ・ペトロヴィッチの首に掛けられた紙には六十の質問が印刷されていた。そして、その紙には「三問正解不合格」と記されていた。ビリーはミレのコンピューターの中の、彼の交わしたEメールを調べる。ミレのフェースブックの最後の書き込みは、ミレの倒れている写真と、「不合格」という言葉であった。それは、ミレの携帯電話から投稿されていた。額の傷は、ピストルによるものではなく、家畜を屠殺するときに使用する、ドリルが飛び出す器具であることが分かる。

ビリーとヴァーニャは、九日前にヘルシクグボリで起こった、同一人物の犯行と思われる事件を調査するために、ヘルシクグボリへ向かう。被害者はパトレシア・アンデレンという三十一歳の女性であった。ビリーには、その名前にも聞き覚えがあった。彼がグーグルで調べてみると、ビキニ姿の女性の写真が載っていた。パトリシアは二年前、「ママのお相手探し」というリアリティー番組に出演していた。

彼女の行方不明を警察に届けたのは、息子をいつまでも迎えに来ないことを不審に思った、幼稚園の女性教諭であった。ビリーとヴァーニャは彼女を幼稚園に訪れる。パトリシアは通常四時に息子を迎えに来るが、その日は「インタビューがあるので」というので、五時になると告げていた。しかし、誰とのインタビューかは明かしていなかった。その後、パトリシアの死体は、近くの学校の教室で「愚か者の帽子」を被せられ、机に縛られて発見されていた。彼女の額はドリルのような物で突き抜かれ、六十の質問が印刷され、「不合格」と書かれた紙が首から掛けられていた。

トルケルはウルリスハムで記者会見を行う。彼は、ふたりの被害者が、同一の犯人によるものであることを断定する。トルケルは被害者の名前を明かさなかったが、ふたりとも「リアリティー番組」の出演の経験があること、「スヴェン・カトー」と名乗る男に呼び出されたことを発表する[MK1] 。「リアリティー番組連続殺人事件」ということで、マスコミは騒ぎだす。会見の後、トルケルは高校の同級生であったリセ・ロッテと会う。彼女は、学校の校長をやっており、死体の第一発見者であった。

三人目の犠牲者が出る。双子の姉妹が行方不明になり、そのひとりの死体が同じように学校の教室で発見される。六十問のテストの結果が二枚張りつけられており、一枚には「不合格」、もう一枚には「合格」と書かれていた。双子の姉妹は、「ブロガー」として、インターネットで人気を得ていた。翌日の朝、双子の姉妹のもう一人、エバが倒れているのが、散歩をしている男に発見され、保護される。彼女は目を、薬品のようなもので潰されていた。発見した男は、その朝、見慣れぬキャンピングカーが停まっているのを見たという。

 ヴァーニャとセバスティアンは救助されたエバを病院に見舞う。エバは自分たちがインタビューを受けることになり、キャンピングカーに連れ込まれたことを話す。彼女は「テスト」合格し、目に薬品を掛けられたうえで解放され、双子の妹は殺されたという。エバは犯人が、今年自分の担当している学生を、MIT(マサチューセッツ工科大学)の奨学金を得させたと言っていたという。

 ヴァーニャから連絡を受けたビリーは、急いで、MITに問い合わせる。今年スウェーデンから奨学金を得て、MITに入学したのはひとりだけ、オリヴィア・ヨーンソンという女性であった。トルケルのチームは、彼女がスウェーデンで学んでいた大学KTHに連絡をし、三人の担当教授の名前を得る。

l  オーケ・スコーク

l  クリスティアン・サウルナス

l  ムハメド・エルファイド

目撃された犯人と思しき男は白人であった。中近東系の顔立ちのエルファイドはまず外れた。セバスティアンとヴァーニャは、スコークを訪ねる。彼には完璧なアリバイがあった。もうひとりの教授、サウルナスは、最近大学を解雇され、行方をくらましていた。

 スヴェン・カトーと名乗る男からの手紙が、新聞社「エクスプレス」記者、アクセル・ヴェーバーに届く。その中で、カトーは、再三の警告が新聞記事に反映されていないことに苦情を述べ、教養のない番組を新聞で取り上げることを直ぐに中止するよう警告する。その後、ヴェーバーに、カトーと名乗る男からの、独占インタビューの申し出が届く。ヴェーバーをその申し出を受け入れて、カトーという男と電話インタビューをする。

警察は、クリスティアン・サウルナスのアパートを見張る。隣人によるとサウルナスは、最初の殺人事件が起こる直前に荷物を車に積んでアパートを出て、その後帰って来た気配がないという。

警察に通報が入る。警察がそのアパートに駆けつけると、ひとりの男が椅子に縛られ、額にはドリルのようなもので穴を開けられていた。その首には「有罪」書いた札が掛けられていた。トルケルとビリーが現場に向かう。持ち物から殺された男の身元が分かる。それはクレアス・ヴァルグレンというテレビ局のディレクターであった。カトーと名乗る犯人は、リアリティー番組の出演者のみならず、その製作者までを殺人の対象とし始めたのであった。

早朝、ウルズラがトルケルを訪れる。彼女は新聞「エクスプレス」をトルケルに手渡す。「リアリティー番組殺人事件、犯人との独占インタビュー」というトップ記事が否応なしにトルケルの目に入った。トルケルとセバスティアンは慌てて新聞社へ向かう。編集長のケルマンと、インタビューを行ったヴェーバーは、送られて来たプリペイドの携帯電話によってインタビューを行い、犯人には直接会っていないと答える。犯人に対する印象を訪ねられたヴェーバーは、犯人は非常に知的で論理的な人物であること、まだ目標に到達していない、まだ犯行を続ける可能性が高いと述べる。

容疑者と見なされていたクリスティアン・サウルナスがアパートに戻ったところを逮捕される。彼は、大学を解雇されたショックを癒すため、元妻の兄の持つ、人里離れた湖畔の別荘に数週間住んでいたという。携帯の電波も届かないその場所で、彼は釣りや散歩して過ごしたと証言する。彼の携帯電話が分析される。そこには、別荘や周りの景色が映っていた。殺人事件のあった日に撮られた写真もあった。彼が数週間そこで暮らしていたことは間違いなさそうであった。警察は、サウルナスを釈放する。捜査はまた振り出しに戻ったのであった。セバスティアンとヴァーニャは、藁にもすがる思いで、オリヴィア・ヨーンソンの三人目の担当教官であるムハメド・エルファイドを訪れる。彼にも完璧なアリバイがあった。エルファイドはセバスティアンに、オリヴィア・ヨーンソンの留学は突然決まり、休暇を取っていた彼は、オリヴィアに別れを告げることができなかったと述べる。

セバスティアンはトルケルに、犯人を燻りだす方法を提案する。セバスティアンは次のように考えた。犯人は、自分のメッセージがマスコミに流れ、民衆に伝えられたことで一応満足している。同時に犯人は自己愛の強い、自己顕示欲の強い人物である。セバスティアンが、自分も新聞社とのインタビューに応じ、犯人を扱き下ろせば、犯人の方から、それに対して何らかのアクションを取る可能性が高い。セバスティアンは、新聞「エクスプレス」に、独占インタビューを申し入れる。そのインタビューの記事が翌朝の新聞に載る。その中で、

「リアリティー番組殺人事件の犯人は大馬鹿者である。」

とセバスティアンは述べていた。

 セバスティアンのアパートの電話が鳴る。それは、国際会議の主催者からの電話であった。今週末、犯罪心理学について講演するはずの人間が急に都合が悪くなり、セバスティアンに急遽代役として講師を務めてもらいたいという依頼で会った。セバスティアンはそれを断り電話を切る。「代役」ということでセバスティアンの中に閃くものがあった。もし、オリヴァイアの留学が急遽決定したならば、それは最初に決まっていた誰かの都合が悪くなった代役かも知れない。そう考えたセバスティアンは、ヴァーニャに連絡をして、オリヴィアの留学が決定した経緯をもっと詳しく調べるように依頼する。

 誰かがセバスティアンのアパートのベルを鳴らした。セバスティアンがドアを開けるが誰もいない。そのとき物陰に隠れていた人物がセバスティアンに襲い掛かる。そして麻酔薬を浸み込ませた布をセバスティアンの口に押し付ける。セバスティアンは気を失う。

 セバスティアンが目を覚ますと、彼は椅子に縛られていた。もう一人の男が、同じように椅子に括り付けられている。それは「エクスプレス」の編集長のケルマンであった。傍に覆面をし、目だけを出した男が立っていた。それが「スヴェン・カトー」であった。男は、セバスティアンとケルマンに、クイズを出し、点数の悪かった方を殺すと言う・・・

 

<感想など>

 

 英国で二〇〇〇年から「ビッグ・ブラザー」という番組が始まった。「リアリティー・ショー」の最初だと思う。若い男女がスタジオの中に作られた家で何か月も共同生活をする。彼らの行動は、セックスまでもテレビカメラで監視される。毎週視聴者の投票で、気に入らない人物が脱落していく。そして、最後に残った者が勝者となる。そんな構成であった。そして、勝者は素人から突然有名人、セレブリティになった。最初の数シーズンは英国で大人気を博したが、その後ほとんど話題にならなくなった。驚くべきことに、十五年後にも、その番組は続いていた。そして、それは私が住んでいる街のスタジオで収録されていたのだった。「柳の下の泥鰌」を狙って、同じような素人が参加する「リアリティー・ショー」番組が次々と作られた。そして、その現象は英国だけでなく、他の国にも波及していたのだった。スウェーデンにも。

 ドイツ語で「リアリティー番組」のことを「ドク・ソープ」と言うことを、この本を読んで初めて知った。「ドク」とは「ドキュメンタリー」の略であり、「ソープ」とは日本でも同じだが、「ソープオペラ」、大衆向きのどちらかというと低俗な番組を意味する。シリーズ五冊目となる今回ズは、低俗な文化と、それを鼓舞するマスコミを嫌悪した人物が、その関係者を殺していくという物語である。誘拐犯が、捕らえた人物に六十問のクイズを出す。そして、二十五問以上正解しないと殺されてしまうという設定。何か、テレビの影響を嫌悪している犯人が、一番テレビの影響を受けているような気がするのだが。

 今回も、ドイツ語訳で五百ページを超える大作。過去の四作に比べると、幾分品質の低下、マンネリズム、だんだん現実離れしてきた設定が見られる。しかし、ここまで来ると意地である。とにかく、この作家の作品は出るたびに読むと思う。意地だけではなく、正直、まだ面白い。何よりも、ドロドロとした人間関係が面白いのだ。

 全作の最後で、ヴァーニャに自分が実の父親であることを告白したセバスティアンは、今回ヴァーニャの母で自分の昔の恋人であるアナと関係を持つ。それが、ヴァーニャに知れてしまい、ヴァーニャはトルケルにセバスチャンを捜査班から排斥するように頼む。そのヴァーニャは、父母に嘘をつき続けられてきたショックでしばらく仕事を離れ、その後、昔の恋人であるヨナタンとヨリを戻そうとする。結婚したばかりのビリーは、家に帰らず、昔の女友達のイェニファーとの関係を求める。同僚のウルズラと密かに関係を持っていたトルケルは、高校時代の恋人リセ・ロッテと再会し、彼女と付き合い始める。そんな具合で、今回主人公たちの「相手の総取り換え」が実行される。

 この作家の作品、面白くてはまってしまう。原作が出てから短期間で英語、ドイツ語に翻訳され、スウェーデンでは映像化もされている。しかし、日本ではまだ全く知られていないようで、作家の名前を日本語でグーグルに入れて検索しても、私自身の書評しか引っかからなかった。日本語の翻訳が出て、日本の人にもこの作家の作品を読んで欲しいような気もするし、自分のだけのお楽しみにとして取っておきたいような気もする。

 

20171月)

 

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