「沈黙していた少女」

原題:Den stumma flickan

ドイツ語題:Das Mädchen, das Verstummte

2014年)

 

 

<はじめに>

 

犯罪心理学者「セバスティアン・ベルクマン」シリーズもこれで四冊目。セバスティアンの無責任で、弁解ばかりの性格に、感情移入できないとか、文句を言いながらも、面白さに魅かれて読んでしまった。この二か月近く、ひたすらこのシリーズを読んでいる自分に気付いた次第。

 

<ストーリー>

 

少年はパジャマを着たまま、独りで遅い朝食の席に着く。夏休みで、当分学校へ行く必要もない。少年は、玄関の扉を叩く音を聞く。母親が玄関のドアを開ける。銃声が響き渡る。

 

刑事のエリック・フロディンと同僚のフレドリカ・フランソンは、家の中のあまりの惨状にショックを受けていた。死体を見慣れているはずの警察官も吐き気を催す光景、そこではカルステン一家四人が銃で撃たれ、皆殺しにされていた。玄関で母親のカリンが倒れており、食堂では年長の男の子が撃たれていた。二階の寝室で父親のエミルが死んでおり、銃声を聞いて逃げようとしたらしい年少の男の子が箪笥に隠れるようにして殺されていた。カルステン一家は、自然保護運動の運動家として知られていた。カルステン一家と、ひとり男が街で言い争っているのが、前日目撃されていた。それはヤン・セダーという男であった。森番の彼は、狼の密漁をカールソン夫婦に通報され、逮捕され、罰金刑を受けていた。四人の殺害に使われた銃は、狩猟に使う散弾銃であることが予測された。

セバスティアン・ベルクマンは、毎朝警察に通っていた。休暇中に津波で妻子を亡くしてから、長い間不規則な生活を送って来たセバスティアンだが、生活のリズムを取り戻しつつあった。そして、その活力となっているのは、同じ警察で働くヴァーニャ・リトナーだった。ヴァーニャはセバスティアンの実の娘であったが、薄々感づいているビリーを除けば、その事実を知る者はなかった。ヴァーニャは、父のヴァルデマーと、母のアナが、自分の出生に関して、嘘をついていることを知った。ヴァルデマーは自分の実の父親ではなかったのだ。それを知った彼女は、両親と疎遠になっていた。彼女はビリーと婚約していた。しかし、ビリーとの結婚生活に入ることに、違和感も持っていた。そして、最近になり、最初は毛嫌いしてセバスティアンが自分の理解者と感じられるようになっていた。

署に戻ったエリック・フロディンは、既にマスコミが事件に感づいて、待ち受けているのを知る。彼は妻で社民党の政治家であり、現在は町長をやっているピアに電話をして、事件について告げる。

カルステン一家と言い争っていたヤン・セダーが警察に呼ばれ、エリックとフレドリカが彼を尋問する。彼は、自分が前日エミル・カルステンと口論し、彼を殺すと脅していたことは認める。しかし、殺人事件のあった前日から、別の街の友人を訪ねていて、町にはいなかったと主張する。彼は、その往復に使った切符を示す。狩猟に使う銃について、セダーは、数週間前に盗難に遭い、自分はもう持っていないと主張する。しかし、その盗難を、彼は警察に届けてはいなかった。自分たちだけでの捜査に限界を感じたエリックは、ストックホルム警視庁殺人課チームに、出動を依頼する。

ウルズラ・アンダーセンは病院にいた。彼女はセバスティアンのアパートで、ドアの覗き穴越しに、エリノア・ベルグクビストに、顔を銃で撃たれていた。命を取り止めたウルズラだが、片目を失っていた。警視のトルケル・ヘグルンドはウルズラを愛していた。彼は、何故ウルズラが怪我をしたときに、セバスティアンのアパートにいたのかを考え、嫉妬に囚われる。トルケルの電話が鳴る。出動要請である。トルケル、ヴァーニャ・リトナー、セバスティアンが車でトースビューに向かう。

車中で各人は自分の境遇についてもの思いにふけっていた。ビリーは、女性をセックスの対象としか見ないセバスティアンが、ヴァーニャには妙に距離を保っていることが気になっていた。セバスティアンのヴァーニャへの態度は、これまでのどの女性に対したものとも違っていた。ビリーは、ふたりが親子である確信を一段と深める。またビリーは、ヴァーニャが何故最近、打って変わってセバスティアン受け入れるようになったのか不思議に思った。トルケルがウルズラ撃たれたとき、彼女がセバスティアンのアパートで、何をしていたのか疑っていた。

一行はトースビューに到着した。ヴァーニャとセバスティアンは、セダーの尋問を引き継ぐ。ふたりはまず昨日エリックが、セダーを尋問したときの録音を聴く。セバスティアンは、セダーは当日の行動については真実を話しているが、武器の盗難の件では嘘をついていることを見抜く。セバスティアンとヴァーニャは、セダーの国選弁護人であったフラヴィア・アレブレクトソンに遭う。彼女も、武器に関してはセダーが嘘を言っていることに気付いていた。

トルケルは、ビリーたち、自分の捜査班を、それまで捜査に当たっていたエリックのチームの、フレドリカ・フランソンとファビアン・ヘルストレームに引き合わせる。地元警察のふたりは、ストックホルム警視庁の同僚に、現場の様子を説明する。惨状は、昼過ぎに少年たちと遊びにきた、近くの少女によって発見されたこと、足跡の中に、家人のものに属さない、サイズ四十四のブーツの跡があり、おそらくそれが犯人のものであることが、述べられる。

トースビューのホテルに投宿したトルケルとチームのメンバーは活動を始める。セダーのアリバイは完璧であった。検察官は、彼を保釈するように命令するが、ヴァーニャとセバスティアンはその決定に納得できない。ふたりは、もう一度セダーに会いに行くことにする。ふたりがセダーの家行くと、彼は不在で、犬小屋で飼い犬が鳴いていた。ふたりがそこへ行くと、猟銃で頭を打ち抜かれたセダーが倒れていた。銃は、盗まれたと主張していた、彼自身のものであった。一見自殺に見えるが、アリバイが成立し、保釈されたばかりの男が、自責の念に駆られて自殺することは有り得ないと、セバスティアンはチームのメンバーに告げる。ビリーは、セダーの家の外に、長靴の足跡を発見する。それはサイズ四十四で、足跡はカルステン家の床で見つかったものとピタリと一致した。カルステン一家を皆殺しにした人間と、自殺を装ってセダーを殺害した人間は、同一人物であったのだ。

入院中のウルズラは、頭痛に耐えながらも、トルケルから送られて来たカルステン家の殺人現場の資料や写真を読む。彼女は重要な発見をし、トルケルに電話をする。トルケルはウルズラの依頼に従って、カルステン家の中を再調査する。リビングルームの床にあった血で出来た子供の足跡は、二十一センチの大きさがあった。その足跡は、二階で見つかった下の息子のものではなかった。犯行が行われたとき、家の中にはもう一人の子供がいたことが分かる。再捜査の結果、家の中に、女の子の衣類の入った鞄が見つかる。カルステン家の家族構成を見た結果、それは、カルステン夫婦の姪で、十歳のニコル・カルステンのものであると思われた。犯行が行われた日、姪のニコルが遊びに来ていたのだった。そして、彼女は脱出に成功し、逃げているものと思われた。彼女が犯人を目撃していることは容易に想像できた。エリックは、地元のボランティアを募って、少女の捜索を始める。一日目の捜索は日没で終わる。少女の足取りはつかめない。ニコルの母親、マリアは、NPO活動でアフリカのマリにいるという。母親に連絡が取られ、彼女がスウェーデンに向かったという知らせが入る。しかし、マリアが何時スウェーデンに戻るか不明であった。

二日目の捜索が始める。署に残っているセバスティアンを、ひとりの若い男が訪ねてくる。ガソリンスタンドの店員だという。彼は、ニコルと思しき少女を見たという。少女は、ガソリンスタンドの売店に独りでやってきて出て行った、そして、何か食料を盗んでいったようであったという。セバスティアンはどちらの方向にニコルが逃げているのかを知る。セバスティアンは、その先に、洞窟があるのを見つける。地元に人間はそれを「一度入ったら二度と見つからない洞窟」と呼んでいた。ることを知る。セバスティアンは、ニコルがそこに隠れていることを確信し、捜索隊を洞窟へ向かわせ、自分もそこへ向かう。

男は、自分がカルステン一家を殺害したとき、少女を取り逃がしたことを知っていた。そして、警察がやっきになって目撃者である少女を捜していることも。少女の行動パターンを推理し、洞窟を思いついたのはセバスティアンだけではなかった。男は銃を持って洞窟へと向かう。ヘッドランプを点けて洞窟に入った男は、岩の割れ目に少女が隠れているのを発見する。まさに、その割れ目に銃を向けようとしたとき、男は何台もの車が洞窟の前に停まる音、大勢の人間の足音を聞く。警察の到着を知った男は、その場を立ち去る。

洞窟に入ったエリックとセバスティアンは、岩の割れ目にニコルを発見するが、彼女はそこから出て来ようとはしない。他の人間を遠ざけたセバスティアンは、ニコルに我慢強く語り掛け、最後には少女を抱いて洞窟から出て来る。少女は病院に運ばれる。

ニコルの母親、マリア・カルステンがアフリカより戻る。彼女は娘の収容されているトースビューの病院に駆けつける。玄関で、セバスティアンがマリアを待っていた。セバスティアンは、ニコルがトラウマのため口を利けない状態であり、救助されてから一言も話していないことを告げる。マリアはその夜、病室に泊まり込むことにする。セバスティアンは口を利けないニコルに、スケッチブックとペンを与える。ニコルは何かを描き始める。

男は自分を目撃した少女が警察に救助され、病院に収容されていることを知る。男は、深夜銃を持って病室に向かう。マリアが目を覚ますと娘が病室から消えている。彼女は急いでセバスティアンに電話をする。セバスティアンとトルケルとチームが病院に駆けつける。護衛の警官が廊下に倒れていた。医者の恰好をした男にスタンガンで撃たれ、気を失ったという。病院内の捜索と、監視カメラのチェックが始まる。ひとりの看護婦が、物置で段ボール箱の陰で眠っているニコルを発見する。自分の身の危険を感じた少女は、自ら身を隠していたのだった。翌日、マリアとニコルは病院を出て、ストックホルムにある家に身を隠すことになる。セバスティアンが彼らに付き添ってストックホルムに向かう。

しかし、その翌朝になると、警察関係者しか知らないはずの隠れ家が、マスコミに知れてしまい、記事になってしまう。警察の中に、誰かマスコミに対する内通者がいるのだ。

セバスティアンはマリアとニコルを自分のアパートに匿うことを提案し、トルケルもしぶしぶそれを承諾する。警察内でも、それのことを知っているのはトルケルとセバスティアンのふたりだけであった。セバスティアン、マリア、ニコルの奇妙な共同生活が始まる。セバスティアンは津波で妻と娘を失ってから、久々に家族としての生活を体験する。マリアは、娘のニコルが落ち着くので、ニコルが眠るとき、自分と一緒にセバスティアンにベッドにいてくれるように頼む。

男はその家を訪れる。新聞記者が男を呼び止める。新聞記者は、少女が泊まっているはずのその家をずっと見張っていたが、朝から出入りがないと言う。男は、ニコルが別の場所に移ったことを知る。男は、ニコルの行方を何とかして突き止めようとする。男は、ニコルにセバスティアンという男がずっと付き添っていることを知る。男はセバスティアン・ベルクマンという名前の犯罪心理学者を探し出し、その住所を見つける。

マリアに不動産会社と契約している弁護士から電話がかかる。弁護士は、マリアに、カルステン一家が住んでいた家を、売ってくれるように頼む。セバスティアンの依頼を受けて、カルステン一家の周辺の土地を調べたトルケルは、その周辺が、鉱山として開発対象となっていることを知る。そして、一帯の他の家族が、土地を売ることに同意している中で、カルステン家だけが、それを拒否し、鉱山開発計画が立ち往生していることを知る。

「今回も金が動機なのか。」

トルケルは、カルステン家の殺人事件の動機が、鉱山開発と、その利権に関係していることを感じる。トルケルはカルステン家の周囲に住む隣人たち、鉱山開発に関係している家族を順番に訪れ、事情を聴くことにする。

男は、セバスティアンのアパートを見張る。そして、窓からニコルが顔を覗かせるのを見つける。男はついに少女をも見つける。男は銃を持ち、アパートの住人が外出した隙に、ドアの隙間から建物の中に入る、そしてセバスティアンのアパートのドアの前に立つ・・・

 

<感想など>

 

殺人事件に目撃者の少女がおり、その事件の証人を巡って、犯人と警察が争奪戦を繰り広げるという展開である。その少女は、殺人事件のトラウマで、外部対して沈黙してしまっている。スウェーデン語の原題でも、ドイツ語題でも「沈黙していた少女」というタイトルとなっている。ストーリーの展開から考えて、他のタイトルは付けようがない。

これまで、事件の当事者であろうが、証人であろうが、女性とみると関係を持ってきた、セバスティアンだが、今回は「進歩」を見せている。事件の唯一の目撃者である少女ニコルとその母親マリアを自宅に匿い、家族のような生活を送るが、今回はマリアとは性的関係は持たなかった。セバスティアンにとって、ニコルは失った娘ザビーネの再来であり、マリアは同じく亡くなった妻リリーの再来であった。セバスティアンは、彼らと一緒に住み、十年ぶりに性的関係以外に立脚した女性との信頼関係を取り戻そうとする。          

「全ては金」である。小さな子供ふたりを含む、一家四人が惨殺されるという事件、犯人は浮かんでは消えるのだが、肝心の動機が警察の捜査班には分からない。そして、後半になって、鉱山の開発計画、土地の買収計画と周辺の住人の思惑、環境保護の活動家であるカルステン一家の反対による計画の挫折等の経緯が明らかにされる。

「やはり動機は金だった。」

と、トルケルが呟くが、この辺りが作者の主張のような気がする。人間を残忍な行動に駆り立てるのは、所詮金であるということか。

 読んでいて不自然な点。それは、セバスティアンの家に匿われているニコルに全然警察の護衛がつかないことである。彼女は洞窟と病院で二度も命を狙われている。いくら、トルケルが警察の中にマスコミへの内通者がいることを感づいているにしても、犯人が銃を持って、誰からも妨げられることなく、セバスティアンのアパートの前に立つことができるというのはちょっと無理があると思った。

 結構早い段階で、全体の四分の三が終わった段階で、殺人犯人が分かってしまう。正直この早さには意外であった。しかし、犯人は分かっても、警察の情報をリークしていたのは誰であったかという疑問が残る。ニコルの居場所等、警察の内部情報が、不思議と外に漏れてしまう。この内通者が誰であるかという点から、物語はもう一段階の展開を見せる。

 セバスティアンは、休暇中、タイで出会った津波で、妻と娘を失う。津波が海岸に押し寄せた際、彼は娘のザビーネの手を握っていた。しかし、彼はその手を放してしまう。その瀬罪悪感で、彼は十年間、毎晩悪夢に悩まされる。この物語の結末は、まさに「水中で娘の手を放してしまった」という過去の、「償い」とも言えるものであり、よく考えられたものであると思った。

 結果として、このシリーズに「はまって」しまった。ここ二ヶ月近く、ずっとこのシリーズを読んでいる。これで四作目。まだ一作残っている。それが楽しみであると同時に、シリーズ全部読み終わったら、喪失感に陥ってしまいそうである。

 また、第一作と第二作が映画化されたものをDVDで見た。満足できるものであった。セバスティアン役のロルフ・ラスゴルドもよかったが、ヴァーニャ役のモア・シレンが、私の描いていたイメージと余りにもピッタリなので驚いた。

 

201610月)

 

<ヒョルト/ローゼンフェルドのページに戻る>