ナショナル・トラスト

 

晴れた日に海岸を歩くのはもちろん気持ちが良いし・・・

 

 今回、僕たちは海岸を五日間歩いてが、その全てが、「ナショナル・トラスト」の管理する場所だった。自然がそのまま残されており、それでいて、整備されていて歩き易い。一言で言うと、素晴らしい。正直、「ナショナル・トラスト」がこれほどの土地をコーンウォールに持っているとは、予想もしていなかった。僕は妻に言った。

「ナショナル・トラスト様様やね。」

 「ナショナル・トラスト」は正式には「歴史的名所や自然的景勝地のためのナショナル・トラスト」(National Trust for Places of Historic Interest or Natural Beauty)という、NPOである。ウィキペディアによると、一八九五年に設立されたこの組織の目的は、

「国民の利益のために、美しく、あるいは歴史的に意味のある土地や資産を永久に保存するよう促すこと。土地については、実行可能な限り、その土地本来の要素や特徴、動植物の生態を保存すること。その目的のために、資産の所有者から歴史的建造物や景勝地の寄贈を受け、獲得した土地や建物などの資産を、国民の利用と楽しみのために信託財産として保持すること。」

とある。つまり、土地や建物の管理に困った持ち主から「トラスト」、つまり信託を受け、それを管理するとともに、それを国民が楽しめるように運用しようという団体だ。でも、それには当然金が必要。それを支えているのが、全国で四百万人を超える、僕と妻のような「会員」と、現場で働く「ボランティア」だ。僕たちは数年前から、二人で約一万円の年会費を払って、会員になっている。会員になると、「ナショナル・トラスト」の管理する建物や土地を、無料で(厳密に言うと、年会費を払っているので、「無料」ではないのだが)訪れることが出来る。僕と妻は、ここ数年間で、何十か所という、「ナショナル・トラスト」の建物を訪れた。「爺さん婆さんの趣味」という感じだが、なかなかきれいな場所が多く、

「一万円払っても、十二分に元が取れるよね。」

と妻とは言い合っている。

 僕は、これまで「ナショナル・トラスト」が、主に歴史的な建物を管理する団体だと思っていた。しかし、「ナショナル・トラスト」は、その目的にあるように「自然的景勝地」の物件も、多数管理していたのである。

 コーンウォールを訪れて、自然の海岸がそのまま保存されていることに驚く。日本だと、能登半島や佐渡島の一部を除いて、自然海岸というのが殆ど存在しないと、海洋生物学者の友人から聞いたことがある。まず、海岸沿いに道路が出来てしまう。それを保護するために、コンクリートで海岸が固められ、テトラポットが置かれる。コーンウォールを車で走って、日本のような「海岸沿いの道」がないのに驚く。もちろん、不便なこともある。泊まっていたポート・ガヴァーンからティンタジェル城まで、直線では十キロもないのだが、海岸沿いの道がないため、狭い道を通り一度内陸に入り、国道を走って、また海岸に出るというコース、四十五分くらいかかった。でも、それで良いじゃない!

 

・・・曇っていても、それなりに趣がある。

 

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