アンコウ汁

 

プリプリ、ムッチリした分厚いアンコウの片身。

 

「パパ、今日は何を作るの?」

晩御飯の献立が気になる娘たちに、そう聞かれても、そのときは答えられない。僕は基本的に、材料を見てから何を作るか決める。「メニューを決めてから材料を買う」妻や娘たちと基本的に料理に対するアプローチが違う。

 家にいると、仕事で妻の方が遅くなることが週に四日ある。そのときは、僕が夕食を作るのだが、冷蔵庫と開けて中にある物を見てから、それを組み合わせて出来る料理を考える。従って、僕は料理を始める前に買い物に行かない。そして、冷蔵庫の中にある材料は毎回違うので、二度と同じものは作らないというか、作れない。我が家では、妻が買い物係、僕はそれを使い切る人という構図になっている。

 コーンウォールに来て、五日目の木曜日の朝、僕たちはまたポート・アイザックの魚市場に出掛けた。そこにある魚を見て、今晩の献立が決まるのである。天気予報は、極めて強い低気圧の接近を告げているが、そのときは、まだ太陽が照っていた。

「何があるかな?楽しみだな。」

ウキウキしながら、並んでいる魚を見る。今日のスズキはちょっと小さい。どの魚も、刺身にするにはちょっと小ぶりであった。僕の目に留まったのは、アンコウだった。僕は心の中で叫ぶ。

「今日のテーマはアンコウ!(あんたは「料理の鉄人」の鹿賀丈史か?)」

古すぎて、この番組をご存知ない方がおられればご容赦を。

「モンク・フィッシュ一匹、おいくら?」

と魚屋のおじさんに尋ねる。二十ポンドだという。結構安い。

「お客さん、皮剥いてフィレにしときましょうか?」

とおじさん。今日はお願いすることにする。さすがの「包丁人モト」も、命がけの料理となるフグと、ヌルヌルのアンコウとウナギは、出来れば避けたい。三枚に下したアンコウの片身を二枚袋に入れてもらい、ニコニコしながら僕は宿に戻った。

 その日は、予報通り午後から雨になり、僕たちは、トレッキングを途中で切り上げ、早めに宿に戻った。シャワーを浴び、ビールを一杯飲んだ後、アンコウの料理にかかる。アンコウの切り身の端を切り、醤油に浸けて口に入れる。もっと淡泊かと思っていたが、結構味がある。僕は、シンプルに味噌と昆布とショウガで、味付けをすることにした。ミドリが僕の料理を横で見ている。

「パパ、どこで料理を覚えたの?」

「お母ちゃんが作るのを見て覚えたのが多いかな。ミドリのように、お母ちゃんが作っているのを横で見てて、色々質問したもんや。それと、大学のとき、友達とフラットシェアをしてて、三日に一度三人分の料理を作ってた。それも、大きいね。」

妻によると、その日のアンコウ汁は、「自然の味」、「絶妙」だったとのこと。嬉しい評価。料理は、鑑賞者の反応が最も簡潔に得られる「アート」?ちょっと言い過ぎかな。

 

 

一時間後、アンコウ汁の出来上がり。