セント・マイケルの直線

 

ちょうど満潮。セント・マイケル・マウントに向かう道が海に消えている。

 

前回は、息子とローガン・ロックのてっぺんまで登ったが、今回は体調を考えてやめておく。起伏のある道を歩いていると、太ももの筋肉がすっかり落ちてしまっていることに気付く。僕たちは、昼過ぎに村に戻り、砂浜で弁当を広げた。白い砂。手に取ってみると、白い貝殻で出来ている。太陽はまぶしいが、風があって少し寒い。写真を撮ろうと、妻が場所を離れたとき、大きなカモメが突進してきて、妻のサンドイッチを奪っていった。すごい早業。

「さっきから、嫌〜な目つきでこっちを見ながら、歩いていたんだよな。」

と僕。しかし、どのカモメも、目つきは余り良くない。

昼食が終わったとき、ミドリが突然、

「わたし、泳いでくる。」

と言い出した。彼女は、一週間に五日間、毎日欠かさず一マイル(千六百メートル)を泳ぐ、つまり、毎週八キロ泳ぐという、ちょっとマニアックなスイマーである。そして、水温に関係なく、水に飛び込めるという特技がある。彼女は、水着に着替えて、波打ち際へ向かって歩き出した。水温は、多分、十五度もないと思う。彼女の身に着けているのは、長袖とは言え、普通の水着で、ウウェットスーツではない。十五分ほどして、

「ああ、すっきりした。」

と言いながら彼女は戻って来た。午前中、ローガン・ロックまで歩いたとき、最後ちょっと疲れ気味だったミドリだが、泳いでからは本当に元気になって、妻とスミレと一緒に、ミナック・シアターへ向かって、また、坂を上って行った。その間、僕は車の中でお昼寝。

四時ごろにポースカーノを出発して、また、ペンザンスに向かって走り出す。セント・マイケル・マウントに行きたいという僕の希望が通って、僕たちは、ペンザンスから脇道に入り、セント・マイケル・マウントの島の前に車を停めた。

「確かに、モン・サン・ミッシェルに似ている・・・」

円錐形の島の形、周囲を取り囲む海、そっくりと言ってよい。ちょうど満潮。干潮の時に歩いて渡るための石畳の道が、水の中に消えている。「セント・マイケル」をフランス語で言うと、「サン・ミッシェル」。聖書に出て来る天使「ミカエル」に由来している。名前と形状の酷似が偶然なのか、必然なのかは分からない。

休暇から戻って、日本語の生徒のRさんに、セント・マイケル・マウントへ行ったと言うと、彼が、興味深い話をしてくれた。ヨーロッパにある、天使ミカエル由来の場所をつなぐと、直線になるという。

「これって、偶然?」

何百年も前、地図も整っていない時代、しかも、イスラエルからアイルランドに至る地点をプロットして、そこに何かを建てるということは不可能だと思う。しかし、偶然というには、余りにも良く出来すぎている。

 

 

「ミカエルの直線」、左から二つ目がセント・マイケル・マウントで三つ目がモン・サン・ミッシェル。

 

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