ステイケーション

 

動けないときは、ノンビリ本でも読んで過ごすか・・・

 

これまでの経験から、ギックリ腰は、一週間もあれば良くなることを知っていた。事実、翌日の午後には、物に捕まらないで歩けるようになり、その翌日には腰を伸ばして歩けるようになった。しかし、僕には二つの気掛かりがあった。ひとつは、ホースサンクチュアリのボランティア。一月から四月まで三カ月以上休んで、周囲のメンバーに迷惑をかけた後なのに、再開したとたんまたリタイアというのは、非常に申し訳ない。もう一つは、その翌週から、コーンウォールに休暇に出掛けることになっていること。うちの家族にとっては、「休暇・イコール・トレッキングン」。行った先々で、海岸や丘陵地帯を歩き回るというパターンなのだ。出発は日曜日の朝。土曜日には、かなり歩けるようになってきてはいたが、まだ、体勢を変えるたびに腰に痛みが走る。トレッキングには程遠いコンディション。

出発の前日、妻の運転で、牧場に置いてきた自転車を取りに行った。そのとき、同僚のセーラに会う。僕がまだ痛そうに歩いているのを見て、彼女は言った。

「休暇は、絵を描いて過ごしたら?」

それもそうね。歩けなかったら、皆がトレッキングをしている間、ノンビリ絵を描いて過ごそうっと。自転車には何とか乗れて家に帰れた。僕は、今年九十歳になる京都の母が、長く歩けなくなったと言いながらも、結構自転車に乗ってどこへでも行っていることを思い出した。

「自転車の方が歩くより簡単なんや。」

 五月二日、日曜日の朝、僕と妻はふたりの娘をそれぞれのアパートでピックアップして、車でコーンウォールに向かった。コロナ感染者がやっと本格的に減った英国では、二週間前から国内の移動が許され、国内であれば、休暇に行けることになった。ホテルやレストランはまだ開いていないが、貸別荘で自炊するのは大丈夫。娘たちが、コーンウォールのペランポートという町に、一軒のホリデーハウスを見つけて、予約していた。

「ステイケーションって言うのよ。」

と妻が言った。「ヴァケーション」というのは休暇の意味だが、英国人は、スペイン、ポルトガル、ギリシアなど、天気の良い場所で過ごすことが普通。だから「ヴァケーション」と言うと、普通は「国外」というイメージ。しかし、英国では、昨年の十二月以来、休暇目的で海外に渡航することは禁じられている。「ステイケーション」とは「ステイ」(留まる)と「ヴァケーション」の組み合わせで、「国内に留まって過ごす休暇」という意味の新造語だそうだ。

 四月十日に日本から戻ってから、英国では例外的に晴天が続いていた。しかし、気温は低く、牧場のバケツの水が朝凍っていることもあったが。コーンウォールに向かう日も、良い天気だったが、ヒンヤリしていた。高速道路を妻と交代で運転する。運転は問題なく出来た。青い空に、色々な形の雲が浮かんでいる。それが、色々な動物に見える。

 

 

この雲、僕はゾウに見えると思ったが、娘のミドリはラクダに見えると言った。

 

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