自然の中での結婚式

 

文字通り「相合い傘」。傘が結構良い小道具になっている。

 

ゾーイとワタルのふたりには、結婚式に関して、ひとつの「こだわり」があった。それは「自然の中で結婚したい」ということ。それで、会場には、ホテルの敷地にある丘の頂上の、林が選ばれた。

前日の午前中、僕たち家族とゾーイ、ワタルの六人で、ホテルの敷地を散歩した。丘の中腹に建てられたホテルは、斜面に沿って沢山の建物や施設があり、敷地を一周するのに三十分くらいかかる。林の横を通ったとき、ゾーイが、

「明日、ここでセレモニーをするの。」

と言った。高い木が茂り、その間に木でできた歩道が作ってあり、奥に舞台があった。セミの声がうるさいほど。英国やドイツにはセミがいないので、日本の夏を思い出し、何だか懐かしい気がする。ともかく、そこは「自然の中で」結婚式を挙げるのには、確かに良い場所だった。

「ティーセレモニー」が終わって窓の外を見ると、まだ雨が降っている。その時点で、僕は当然、戸外でのセレモニーは屋内に移されるものと思っていた。しかし、ワタルとゾーイのふたりは、雨の中で予定通り、やっちゃったとのである。

「ティーセレモニー」の後、一時間ほどして、僕たちは部屋を出た。廊下では、白いウェディングドレスを着た新婦と、スーツを着た新郎が写真を撮っていた。彼らは、エレベーターで階下に降り、ホテルの玄関を出て、湖を見渡すバルコニーで写真を撮っている。小雨が降り続いている。ゾーイは引きずっているウェディングドレスの裾が濡れるのを全然気にしていない。ふたりで一本の透明のビニール傘を持っているが、それが写真のひとつのアクセントになっている。

「雨天決行なんや。」

と、僕はそのとき初めて知った。

ハンさんが言ったように、ハンさん側からは約二十人、エレンさん側からは四十人のゲストが招待されていた。全員がご親戚だそうだ。それらの人々がホテルの玄関に集まっている。もちろん、その時点では、誰が誰なのか分からない。ハンさんが、朱色の中国服を着た年配の男性と、赤いチャイナドレスを着た年配の女性の前に僕たち家族を連れて行く。

「私の父母です。」

とハンさんは言った。ゾーイのお祖父ちゃん、お祖母ちゃんである。年長者は立てないといけないと聞いていたので、通常の「ニーハオ」ではなく、一段上の「ニンハオ」とご挨拶をする。

「おいくつになられたんですか?」

と中国語で聞くと、何とか通じて、八十七歳と、八十歳という返事が返ってきた。お祖母ちゃんが、一所懸命話しかけてこられるが、残念ながら、何をおっしゃっているのか全然分からない。

 

電気自動車で会場へ向かう。ブライドメイドのお姉さんたちはゾーイの従姉妹だという。

 

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