黒いセクシーコスチューム

 

  

劇場の正面にはキャストの写真が掲げられている。

 

十二月のある日、クリスマスの雰囲気を味わいたくてロンドンの街に出かけた。レスタースクエアのギャリック・シアターの前を通ると、「シカゴ」の看板が出ている。

「『シカゴ』って、しばらくロンドンでやっていなかったが、また始まったんだ。」

機会があれば見にいこうと思った。

新年に入り、少し落ち着いたので、インターネットで切符を捜す。金曜日のマチネーの切符が三十ポンド弱(約四千円)で手に入った。マチネーと言っても午後五時から。会社が終わってからで間に合う。

「シカゴ」と言えば、黒い下着姿のお姉さん。(あれって、下着ではないかも知れないが。)実際に舞台が始まると、女性は皆、そのセクシーなコスチュームで登場する。主役のヴェルマとロキシーは、黒いスリップのような衣装。それも凄く短くて「パンツ」が見えそう。そして、最初から最後まで皆同じ衣装で登場する。その格好のまま、あるときは囚人になり、またあるときはレポーターとなる。

殆ど下着と同じ格好なので、俳優、ダンサーの肉体が観察できる。男性は「ロキシーのさえない夫、エイモス」を除いて皆ムキムキのお兄さん。女性も、腹筋が割れているのが分かる。皆、鍛え上げられたボディーである。

リアリティーは全然追い求めていない、見ている者の想像力に訴える。そういう意味では「落語」に似ていると思った。普通、オーケストラボックスは舞台の手前か下にあり、楽団は観客席からは見えない。しかし、「シカゴ」では、舞台の奥が雛壇になっており、そこに指揮者、バンドが座っている。彼等が演奏している様は常に客席から見える。それどころか、指揮者も時々舞台に参加する。ロキシーが自分の載った新聞を見て有頂天になり、

「ねえ、見て見て。」

と指揮者に見せたりするのだ。左下に、ヴァイオリンのお姉さんが座っているが、なかなかチャーミングな人だった。

出番でない俳優は、舞台の袖に隠れるのではなく、舞台の横の椅子に座っている。それも観客席から見える。つまり、この舞台、「キャバレー」(日本のではなく米国の)を念頭に作られているのだ。「ミュージカル」と言えば、伝統的な「歌劇」をモダンにアレンジしたもの考えられることが多いが、「シカゴ」は出発点が違う。キャバレーでの「ショー」を意識した演出になっている。

ビリー・フリンという弁護士が現れる。彼は有名人専門の弁護士で、被告を強引に無罪にしてしまうことで知られている。ロキシーは夫に五千ポンドという大金を準備させ、フリンの弁護を受ける。フリンはロキシーに、

「自分の言うことに従って行動するように。」

と命ずる。その様子を、ロキシーがフリンの膝の上に座り、腹話術の人形の真似をして表わすところが面白い。

 

劇場の一番奥にあるミキシングテーブル。