グレナダ島

 

ナツメグの効用について説明するスパイス・ショップの親爺さん。

 

僕達が最後に立ち寄る島がグレナダである。人口約十万人のこの国の存在を、僕は小学生の頃から知っていた。それは当時僕が切手を集めていたからだ。切手が重要な収入源のひとつであるこの国は、一年間に三千種類の切手を発行したこともあるという。日本人では何故か南野陽子がこの国の切手に登場している。

昨日船に戻り、インド料理があるというので、いつものレストランでのディナーをやめ、バイキングのレストランへ食いに行った。それほど辛いもの、刺激物を食べたとも思わないのだが、その後すぐに気分が悪くなって、僕は吐いてしまった。幸い朝までに吐き気は治まったが、朝食はオートミールと果物とヨーグルトという消化の良いものにしておく。

今日もウガンダ出身のインド人で「値切りの名人」ナツ夫妻と一緒に行動することにする。ナツ夫妻自体は、もうクルーズに何回も参加しているので分かる通り、結構リッチな人達なのだ。はっきり言って、百円、二百円は彼等にとってはどうでもよい金額である。ナツのしている腕時計だけでも、何十万円もするものだと思う。交渉すること、値切ることは、ナツにとって、一種のゲームなのだ。値切りに成功した後、彼は自分の才覚でゲームに勝った、そんな満足感に浸っているような気がする。

今日もナツの交渉で、ジョーという名のタクシーの運転手と、山とビーチを回って一人二十五ドルという話がまとまる。もう一組、ドゥリューとボビーという夫妻と三組でタクシーに乗り込む。

首都で港のあるセント・ジョージスの街外れに、何と小さな島には似合わない立派な競技場があるではないか。

「これ、サッカーのスタジアムなの?」

と僕は運転手のジョーに尋ねる。

「いいや、クリケットだ。」

英国の植民地であった国ではクリケットが盛ん。グレナダ等の島々の選手で構成される「ウェスト・インディーズ」のチームは結構強いと聞いている。

「このスタジアム、何人くらい入れるの。」

と更に聞く。

「七万人くらいかな。」

とジョー。ヒエ〜、グレナダ島の人口が十万人。その国の住民の半分以上を収容できるスタジアムなんて、これは何ともすごい話だ。

 グレナダはスパイス、香辛料の島でもある。タクシーは、見晴らしの良い場所にある香辛料店に立ち寄った。そこの親爺さんが、実演を交えながら特産のナツメグについて説明してくれる。ナツメグは実はジャムにして、種の薄皮も香辛料として使える。種は乾かして、やはり香辛料、そしてそれを精製したものは薬にもなるという。つまり、捨てるところのない植物なのだ。ナツメグから出来た筋肉痛の薬を試しながらドゥリューが言った。

「こりゃ、なかなか気持ちが良いもんだ。」

 

被写体になり金を手にしようと寄ってくる着飾った島のおばさんたち。