小銭がない

 

滝壺へ飛び込む地元のお兄ちゃん達。

 

スパイスショップを出ると、民族衣装に着飾ったおばさんたちが駆け寄って来た。ナツが彼女達をヴィデオに撮っている。それを僕が写真に撮った。そうしたら、おばさんの一人が、僕に対して、

「写真を撮ったのなら一ドル払ってよ。」

と騒ぎだした。別に一ドルくらい払ってあげてもよいのだが、実は昨日ドルがなくなって、その日の朝、船の中で金を下ろしたばかり。財布の中には十ドルと二十ドル紙幣しかない。いくらなんでも、おばさんに、「お釣りちょうだい」とも言いえないし。しかし、十ドルをモデル代に払うというのも馬鹿げている。トイレから帰ってきたマユミに、

「このおばさんに一ドル払ってよ。」

と言うと、彼女も細かいものがないという。運転手のジョーもおばさんに同情しだして、

「写真撮ったのだったら払わないとね。」

と言い出す。別にケチっているわけではなく、小銭がないだけなんだけど。結局、ナツに一ドル借りておばさんに払った。

 ジョーはそれから、僕達を「滝」へ連れて行ってくれた。この滝、昨日のセント・ルシアの滝よりは高いが、それでも小ぶりなものである。ここのアトラクションは、地元のお兄ちゃんたちが、滝の上から滝壺に向かって飛び込むパーフォーマンス。高さは二十メートルくらいだろうか。滝壺にドボーンと落ちたお兄ちゃんが水面に現れるたびに見物人から拍手喝采が起きる。ここでも、帰り際、飛び込みのお兄ちゃん達から、

「コントリビューション(寄付)してよ。」

とせがまれた。その気はあるんだけど、またまた断らざるを得ない。

「今、小銭がないんだったら。」

 次に行った、「熱帯雨林公園」には驚いた。入場料に二ドル払って、やっと釣りで小銭ができたのだが、たとえ二ドルでも、「金返せ」と迫りたくなる場所。入り口のところに猿がいて、確かにそれは可愛かった。「熱帯雨林公園」と言うからには、僕は森の中を散歩できるのだと思っていた。しかし、三十メートルほど行って、行き止まり。それでお終い。そこから、かつての噴火口の跡の湖が見えるのだが、その間を電線が何本も横切っていて、写真も撮れない。何これ。カリブ海の島には、訳の分からない「名所」があるのだ。

 「熱帯雨林公園」から坂道を下り、ビーチに着く。そこで、運転手のジョーには一時間半ほど待っていてもらって、僕達はカリブ海最後の水泳をすることにする。いつものように、マユミと暖かい海に飛び込む。ここは水がとても澄んでいる。ビーチは湾に面していて、湾の対岸にはヴェンチューラが泊まっている。知り合いの英国人に会う。

「あなた達、本当に泳ぐのが好きね。」

「今日は、僕達、ヴェンチューラまで泳いで帰るから。」

冗談のつもりだったが、二キロくらいの距離、本当に泳げそうな気がする。

 

熱帯雨林の中に生息する猿。結構人懐っこい。