地獄巡り

 

煙と湯気を上げる噴火口をバックに、マンジュラとマユミ。

 

ピトンを見た後、運転手のロイド君は、「滝」と「火山」に立ち寄ってくれた。滝は高さが十メートルくらいの可愛いものだが、滝壺まで入っていって、修験者のように水に打たれることができる。若いカップルが水着で滝壺の中に入っていて、涼しそうだった。辺りには赤い熱帯の花が咲いていて、飛沫を上げる滝とよくマッチしている。

セント・ルシア島は火山島で、まだ湯気と煙を上げている噴火口がある。噴火口の直径は二百メートルほど。縁から見下ろすと、湯気の中に、水がグツグツと煮えたぎっているのが見える。昔はこの湯で、ゆで卵を作るなど、デモンストレーションをしていたらしいが、熱湯の中に落ちて大火傷をした人がいたらしく、現在、火口の中は立入禁止になっている。辺りには硫黄の匂いがたちこめている。この火口のある村の名前、スーフリエールはフランス語で、「硫黄の匂いのする場所」という意味だそうだ。雲仙に「地獄巡り」というのがあったが、まさにその雰囲気。

火口の下に、湯が溜まってプールのようになっている場所がある。そこに入って、お互いに泥の塗り合いをしている人々がいた。死海へ行ったとき、「身体に良いから」と言って、傍にいた親爺さんに身体中に泥を塗られたことがある。

「これまで顔に泥を塗られたことはあったけど、身体に泥を塗られたんは初めてやわ。」

と思った。「泥パック」というのがあるくらいだから、きっと身体に良いのだと思う。

 火山を降りて、カストリーズの町へと戻る途中、スーフリエールや他のいくつかの村を通過する。道路脇の家の前に椅子を出して座って、ボケッと外を眺めている人が多いのだ。それも年寄りだけでなく、結構若い人までも。

「実にのんびりした風景やねえ。」

妻と囁きあう。

「あの人達は、単に『レイジー』なの?それとも仕事がないの?」

とナツが運転手に聞いている。

「両方だね。島では失業率が二十パーセントを超えてるから。」

と運転手のロイド君が答えた。

 最後にビーチに行きたいと言ったら、ロイド君はカストリーズの北にあるリゾートの、高級ホテルに連れて行ってくれた。ホテルの裏が、プライベートビーチになっている。早速マユミと海に飛び込む。泳げないと言っていたナツとマンジュラも足を水に漬けている。太陽が時々雲に隠れて、日差しが強すぎなくて、ちょうど心地が良い。

「今日は良い日やったね。念願のピトンも見たし、ビーチにも来られたし。」

と温かい水の中で妻に言う。

「もう一度カリブ海に来られて、同じ場所にずっと滞在できるとしたら、この島がいいわ。」

と妻が言った。確かに「地上の楽園」っぽい場所である。妻は帰り際、ホテルのパンフレットを貰っていた。果たして、僕達が、もう一度この島を訪れることは、あるのだろうか。

 

ピトンを見た後、島で作られたピトン・ビールを港で飲む。

 

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