トルトラ島

 

六日ぶりに陸地が見える、英領ヴァージン諸島、トルトラ島が近づく。

 

十一月十二日月曜日、午前八時二十分、妻と僕はカリブ海の島に最初の一歩を印した。

「この一歩は小さいが、我々夫婦にとっては大きな一歩となる。」

僕は厳かに宣言する。(最近亡くなられた有名の方の受け売りだが。)

 最初に上陸したのは、英領ヴァージン諸島のトルトラ島。この後、アンティグア、セント・ルシア、グレナダと毎日違う島をひとつずつ訪れ、最後にバルバドスから飛行機に乗り、英国に戻ることになっている。

 その朝、夜が明けると、船は小さい島の間を縫うように走っていた。少しして前方に少し大きな島が見える。ヴェンチューラのような白いクルーズ船が入り江に停泊している。あれがトルトラ島らしい。間もなく「パイロット」と書いた小さなボートが近付き、二人の水先案内人がヴェンチューラに乗り移る。午前八時、朝食を取っていると、船長から、無事接岸しこれから上陸が許可される旨、午後四時までに帰船するように、の放送が入った。

 トルトラ島にはヴェンチューラの他にもう一隻のクルーズ船が入港していた。ヴェルディのオペラから取った「アイーダ」という名前の船。ジェノヴァと書いてあるので、イタリア船籍らしい。ヴェンチューラより少し小ぶりとはいえ、七、八万トンはある。

 気温は三十度前後だが、湿度が高い。船を降りると、乗り合いタクシーがずらりと並んでいる。黒い顔に、白いアロハシャツを着た運転手たちが客を引いている。船は英領ヴァージン諸島の「首都」ロードタウンに着いたのだが、この首都の人口が五千人、トルトラ島全体でも人口は二万人足らず。そんな小さな島に、二隻の船で何千人と言う観光客が一度に押しかけたのであるから、それがいかに大きなインパクトであるか想像出来る。

 とりあえず、ロードタウンの町を歩いて見る。何となく寂れた街並み。駐車場に停まっている車の九割以上が、年季の入ったミツビシやクライスラーの四輪駆動車だ。

「いやはや、何もないところやね。」

僕は妻に言った。小ぎれいなカフェでもあり、コーヒーでも飲めるかと思ったのだが。僕は、ソロモン諸島を訪れたときのその「首都」、ホニアラの町を思い出した。ねっとりとした湿度のある暑さも応える。

「ビーチに行こうぜ。」

と言うことで、妻と僕の意見が一致する。

マイクロバスの乗り合いタクシーに、他の英国人達と乗り、「ケイン・ガーデン・ビーチ」に向かう。何故そのビーチを選んだかというと、持ってきた英語の観光案内書にはそこしか載っていなかったからだ。日本語の観光案内書「地球の歩き方、キューバとカリブ海の島々」では、トルトラ島には一行も触れていない。結構マイナーな場所らしい。

タクシーは町を離れ、島の反対側のビーチへ向かう。間もなく、何故四輪駆動車が多いか理由がわかった。島は面積の割りに高い山から構成されており、道がとてつもなく急なのだ。タクシーは一速で大きなエンジン音を響かせ、何とか坂道を登っていく。

 

早朝「首都」のロードタウンに到着。通学途中の子供達に出会う。英国領なので制服がある。

 

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