人懐こい英国人、その二

 

ダークダックスのメンバーがお宮参りに行くみたいなもんですわ。

 

明朝はカリブ海での最初の寄港地、英領ヴァージン諸島、トルトラ島に到着する。今日が最後のフォーマルディナー。タキシードを着るのもこれが最後。夕食に行く際、妻は特に気合が入っており、腰にヒラヒラの付いたドレスを着て、踵が十センチはあるハイヒールを履いている。鏡に映ったふたりの姿を見て、

「ダークダックスのメンバーが、子供を連れてお宮参りに行くみたいやな。」

と僕が正直な感想を述べる。

 午後六時半、いつものメンバーが着席する。一緒に食事をするようになり一週間以上経っている。テーブルでの雰囲気は打ち解けて、会話も弾む。

「今日は鳥を見ましたよ、陸地が近いんです。」

とマルコムが嬉しそうに言った。

「何か『ノアの箱舟』みたいですね。」

と僕がコメント。その日は、プレミアリーグのチェルシーとリバプールの試合があり、船内のバーでも中継されていたので、チェルシー・ファンのマユミとリバプール・ファンのマルコムの間での応酬が一通りあった。

いつも寡黙な元お役人のキースが、突然話しかけてくる。

「モト、今日、『ボルシア・メンヒェングラードバッハ』は勝ちましたよ。」

「えっ?」

そう言えば、数日前、甲板で彼に会ったとき、僕は昔ドイツで住んでいた町のサッカーチーム「ボルシア・メンヒェングラードバッハ」のTシャツを着ていた。そのとき、僕が昔ドイツのメンヒェングラードバッハに住んでいて、何度かその町のサッカーチームの試合を見に行ったことを話したのだった。キースはそれを覚えていてくれて、テレビのテレテキストで、結果を調べておいてくれたわけだ。彼の気遣いは、僕にとって嬉しく、ちょっと感動的でさえあった。

 妻と僕にとって不思議なことがひとつあった。他の乗客と話すとき、ほぼ百パーセント、

「どこにお住まいですか。」

と尋ね合った。ところがこれまで、「ロンドンから」と答えた人がひとりもいなかったのだ。イングランドの人口の五分の一はロンドンに住んでいるので、確率的に言うと、五人に一人は「ロンドンから」と答えてよいと思うのに。

「これは単なる偶然なのだろうか。」

「ロンドンの人はこんなクルーズに来ないのだろうか。」

「クルーズはロンドン以外の人に好まれるレジャーなのだろうか。」

妻と色々と意見を出し合った。しかし、真相は分からない。

 ともかく、今回船に乗っている英国人達は、僕がこれまでロンドンで出会った「人種」とは明らかに違っているように思われる。

 

時には男性からだけではなく、女性からもダンスを申し込まれるマユミ。人気者です。

 

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