とりあえず問題解決

 

列車の横に開いた入り口から乗り込む。二階建てなので、上下用に入り口が二つある。

 

乗車するときに、着地のパスポート審査を済ませるのは便利なシステムだが、フランスは

「英国がEUを離脱したら、もうそんなサービスはしないよ。」

と、嫌がらせのようなことを言っている。パスポート検査も車に乗ったまま。その後、抜き打ちで車が停められて、危険物、麻薬、密輸などの検査が行われている。トランクルームに誰かを隠していても、ここで捕まるのである。

いよいよ列車に乗る。プラットホーム各々に向けて車の通れる幅のある橋が架かっている。その橋を通ってプラットホームに下り、列車の横っ腹に開いた穴から、列車に乗り入れるわけである。列車は二階建て。僕たちは上の階にいく入り口から入った。列車の車両の間は「イケイケ」になっており、どんどん奥へ進んでいける。最後には前がつかえてストップ。そこでイケイケになっていた車両間のシャッターが下りる。同じ場所に乗用車が五台乗っている。二階建てなので下の階にも五台乗っているはず。ということは一車両に乗用車が十台乗ることになる。三両にひとつくらいの割合でトイレも付いており、「おしっこがしたくなったら」という僕の心配は解消された。

せっかくだからと思ってトイレへ行ってみる。元々列車であるから幅の狭いところに、乗用車が通れる道が真ん中を通っている。必然的に残されたスペースはほんの僅か。トイレは細い僕でもちょっとつかえるほど。

「お相撲さんはこのトイレを利用するのは絶対無理やね。」

僕はそう呟いた。下の階は、オートバイの専用になっていて、十台余りのバイクが停まっていた。

発車に先立って、車掌(?)の女性が回ってきて、ルームミラーにぶら下がったカードに印刷されているバーコードをスキャンしていく。つまり、

「乗車券を拝見いたします。」

ということらしい。

「ハンドブレーキをかけて、窓は開いておいてください。」

とその女性車掌は言った。車掌と言っても別にユニフォームを着ているわけではなく、黒いズボンに黒いセーター、オレンジ色の蛍光色のベストを着ているだけ。

列車は静かに動き出した。二分ほどでトンネルに入り、小さな窓の外は黒くなり、列車がどんなスピードで走っているかは、全然分からなくなった。全然揺れがなく、列車は実にスムーズに走っている。

さて、この英仏海峡トンネル、英国で言う「チャネル・タネル」(Channel Tunnel)は一九九四年の五月に開通し、同じ年の十一月に開業、旅客列車が走り出している。今からもう二十三年前だ。全長は五十キロと四十五メートル。工事か正式に着工されたのが一九八六年であるから、六年間の工事期間を経て完成したことになる。建設費用は一兆八千億円であるという。

 

基本的に、乗客は車に乗ったまま、海峡を渡る。外に出ても狭いし、景色は何も見えないし・・・

 

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