車で出張する際のふたつの心配事

 

高速二十号線から別れて、「海峡トンネル」へ向かう。ここからターミナルまでは一キロメートルもない。

 

「モト、次回は車で行こうや。」

二月にフランスのダンケルクに出張したとき、帰りの列車の中でMさんが言った。Mさんは今年から僕の「ボス」となった英国人である。五月になり、また彼と一緒に日帰りでダンケルクに出張することになった。そして、必然的に今回は車で行くことに。と言っても全コースを車では行けない。英国とフランスの間には海が、ドーバー海峡がある。いくら泳いで渡れる距離と言っても、車では無理というもの。フェリーももちろんあるが、車に乗ったまま、海峡トンネルを通ってフランスへ運んでくれる列車もあるのだ。今回はその列車「ル・シャトル」を利用することにした。旅客列車である「ユーロスター」では、もう何十回も英仏海峡トンネルを通り抜けているが、「ル・シャトル」では初めて。

「何事も初体験というのはウキウキするね。」

僕は出張が決まった日の夜妻に言った。

五月のある金曜日、朝五時半に家を出て、妻に近くの高速道路のサービスエリアまで車で送ってもらう。午前六時にその高速道路を通るMさんに拾ってもらうことになっていた。駐車場にある「スターバックス・ドライブスルー」の前で待っていると、六時キッカリにMさんの運転する銀色のベンツが登場。小雨の中を彼の車でフォークストンの「ユーロトンネル・ターミナル」へ向かう。英国内は全行程が高速道路である。昨夜調べたらサービスエリアからターミナルまでは九十マイル(百四十四キロ)、所要予定時間は九十分。順調に行けば七時半に到着する予定だが、朝七時を過ぎると交通量がグッと増えるので、予断は許さない。

「渋滞に巻き込まれて乗り遅れたらどないしょう。」

というのが、僕の最初の心配だった。

「自動車を列車に乗せて運ぶんやて。」

最初はそれがどんなものかピンと来なかった。ときどき、日本でもヨーロッパでも自動車を載せた貨車が線路を走っているが、あんなものかなと想像していた。乗客も自動車に乗ったままだということは聞いていた。

「途中でトイレに行きたくなったらどうしよう。」

それが僕の二番目の心配事だった。

運転が余り好きでない僕は、これまで大陸への出張に車を使うなんて考えてもみなかった。自分で運転するのもカッタルい。また、鉄道や飛行機の旅だと、待ち時間や車中で仕事も出来るし、本も読めるし。しかし、値段のことを考えると二人以上で旅をする場合、車が圧倒的に安い。今回も「ル・シャトル」の料金は車一台往復で八十ポンド。一万二千円ほど。ガソリン代を入れても、旅客列車や飛行機を利用するのに比べ半分以下だ。

三十分ほど走って、テムズ川の河口にかかる吊り橋「クイーン・エリザベス橋」にさしかかる。

 

チェックイン、パスポート検査ともに車に乗ったまま済ますことが出来る。右ハンドル用と左ハンドル用のレーンがある。

 

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