ボールガールとボールボーイ

 

ボールが転がると、犬のようにダッシュする。犬を訓練したら何となく代わりにできそう。

 

ボールガールとボールボーイ。転がったボールを回収し、選手にボールを供給するのが仕事。それだけかと思っていたら、選手に汗を拭くタオルを渡すのも仕事だった。ひとつのコートで選手の後ろに二人ずつ、ネットの横に二人、計六人が控えている。ボール回収係のふたりは、ネットのすぐ横で、陸上の短距離走のクラウチングスタートのような恰好で待ち構えている。ボール供給係の四人は、選手に手を挙げて自分がボールを持っていることを示し、選手がボールを要求した場合は、ワンバウンドで、選手に投げる。

紺色のシャツを着たティーンエージャーの少年少女。実にキビキビと動き、それでいて、邪魔にならない存在に徹している。訓練された動き。彼らも、十九のコートで全部試合が行われれば百十四人。二交代であっても、二百人以上は必要になる。審判員とボールボーイ、ガールだけで最低五百人以上。その他、選手をコートへ案内する人、警備員、レストランやバーの従業員。最低でも千人以上のスタッフが働いていると思う。

サーブの前、ボールボーイやボールガールから、黄色いボールを渡された選手の中にも、色々なタイプの人がいる。サーブの際、渡されたボールのひとつを無造作にポケットに入れ、もうひとつでサーブを始める人。四個ほど受け取り、その中から慎重に二個を選んで、残りをまたボールボーイ・ガールに返す人。何を基準に選んでいるかは全く不明。一緒やん。女性のウェアには、下にはいているパンツにポケットがある。

「テニスの試合って長いねえ。」

と僕は妻に言う。女子は二セット先取、男子は三セット先取で試合が決まる。男子の場合、最終セットまでもつれ込むと五セットもやる。一セット四十分としても、三時間以上かかる。おまけに、競った試合は、ジュースとかタイブレイクになる可能性が高い。三時間ずっとスタンドで見ているのは退屈だ。

「ちょっくら、散歩に行こうや。」

時々妻に声を掛け、席を立つ。各コートで試合が行われている最中でも、外のコンコースをゾロゾロ歩いている人が多い、

「金払て来たんやろ。ちゃんと試合を見ろよ。」

と思う。よく考えれば、自分も試合を見ないで、ウロウロしているひとりだった。各コートの途中経過は、電光掲示板に表示されているので、自分のコートの試合が「佳境」を迎えていることは分かる。いよいよというときは、急いで戻ればよいのだ。

その日、センターコートでは、日本のエース、錦織選手がプレーしていた。勝っているようである。三時頃に「散歩」に出ると、平坦なコートの半分くらいが、ダブルスの試合になっていた。日本の穂積、加藤組が、外国人ペアと対戦している。

「加藤さんって、結構可愛いやん。」

と思うが妻には黙っておく。ダブルスの試合、大変目まぐるしい。四人が「よってたかって」ボールを打つもんだから、シングルスのようにポーンポーンと交互にボールを打つイメージではなく、チャカチャカとボールがコート中を絶え間なく動き回る雰囲気だ。

 

ヘンマン・ヒルの大スクリーンの前で。天気が良い時、ここで日光浴とピクニックをしながらの観戦もよろしおます。

 

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