正直者の住む所

 

スプリングフィールド農場の無人売店。色々なカボチャが売られている。

 

デールの帰り道、貸別荘の近くにある農場の前で、卵を買う。「スプリングフィールド農場」と看板の掛かった入り口に、自家製の卵、はちみつの他、もうすぐハローウィーンなので、カボチャが並んで売られている。色々な形、色、大きさのカボチャ。

「カボチャってこんなバラエティーに富んだ野菜だったんだ。」

と改めて感心する。その他、色々な物を売っているのだが、売っている人はいない。欲しい人は、勝手に持って帰って、お代をそこに置いてある缶に入れて行くのだ。もちろん、お金を入れないで去ることも出来る。しかし、ここまで信用されると、誰も誤魔化せないよね。前章で書いた、道でのすれ違いもそうだけど、田舎には田舎のルールがあり、ルールは基本的に「性善説」に基づいているようだ。ここに住んでいたら、自然に田舎のルールに従うより、正直者になるのではないだろうか。

それにしても月曜日からよく歩いた。この時期としては天候に恵まれ、毎日トレッキングが出来た。普段、月曜日から金曜日まで「ホース・サンクチュアリ」(捨て馬保護センター)の仕事で、餌やり、水遣り、厩舎の掃除をしている。起伏のある牧場を歩いて、足腰は鍛えているはずなのだが、さすがに少し疲れた。

貸別荘に戻る。今晩のメニューはパスタとサラダだが、パスタを茹でるのは娘に任せ、サラダは妻に任せ、僕はゆっくり風呂に入ることにする。朝から作っておいたパスタソースはいい具合に味が馴染んだ頃だ。風呂場は一番上の階にあり、斜めになった天井から空が見える。暮れなずむ空を眺めながら風呂に入るというのもいい気分。そう言えば、僕がドイツで最初に住んだ家も、バスタブの上に、斜めの天井と窓があった。落ちてくる雪を見ながら風呂に浸かっていたことを思い出す。当時、初めての外国生活、新しい環境で、毎日大変だったことも。

木曜日、トレッキングが出来るのも今日が最後。明日はまた、七時間ほど運転して、ロンドン近郊まで帰らなくてはいけない。

「ちょっと疲れてるし、今日は近場にしようぜ。」

と言う僕の提案が通り、窓から見えるブロード・ヘイヴンの砂浜から通じる遊歩道と、車で少し行ったニューゲールの砂浜を訪れることにする。この日も天気が良い。ブロード・ヘイヴンの砂浜を縦断する。よく締まった砂浜。石川県の、「千里浜なぎさドライブウェイ」のように、車で走れそう。黒くて細かくて固い砂。砂浜の端からトレッキングコースに入る。昨日までのコースほど、ダイナミックな風景ではないが、基本的にどこを歩いても景色がいい。この辺りは全て、「ペンブロクシャー海岸国立公園」なのだ。サッとにわか雨がある。

「あっ、あれ見て!」

と妻が言う。海の上に一瞬虹が架かる。虹の見えた日は、何かラッキーな気がする。

 

こんな景色が何十キロも続くのが、ペンブロクシャー海岸国立公園。

 

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