僕たちはもう迷わない

 

マーロー・サンズ、三角形の岩が続く海岸だ。

 

ウェールズに着いたのが日曜日の午後、天気予報では、月曜日、火曜日は雨だった。英国の西側は、雨が多い。大西洋の方から吹いてきた湿った西風が、ウェールズやコーンウォールの山地にぶつかって雨を降らせる。北陸地方に雨が多いのと同じ理屈だ。

月曜日は予報通り朝から雨。午前中は、久しぶりの友人とオンラインで話したり、メールを書いたり、娘のお薦めの映画を見たりして過ごす。ミドリは、シーフードの店に電話をして、明日の夕食用に「シーフード盛り合わせ」を注文している。またロブスターが食べられるといいのだが。

予報では夕方に雨が上がることになっていた。しかし、午後二時ごろには、もう雨が小やみになったので、近くを観光してみることにする。目的地は、この貸別荘のオーナーご推薦の、「マーロー・サンズ」という場所だ。地元民の推薦する場所、期待が持てる。そこも美しい海岸の常として、ナショナルトラストの管理下になっている。二十分ほど車で走り、ナショナルトラストの駐車場に車を停める。雨は止んだが、まだ深い霧が立ち込めている。霧の中を歩き始める。視界がきかないが、右側から波の音が聞こえるので、そちらに海があるのが分かる。

十分ほど歩くと、霧の中に海岸が見えた。坂を下りて、浜に出てみる。岩浜で角錐形の岩が、海から突き出ている。

「『とんがりコーン』みたいな岩やね。」

と妻に言う。それらの岩が、白い霧の中に黒いシルエットにないっている。ちょっと、水墨画のような光景。何故、どの岩も三角形をしているか、よく見ると、その理由が分かった。この辺りは、地層が傾いて、本来水平に堆積した地層が、六十度くらいの角度になっているのだ。その六十度の傾きの岩が波で浸食され、とんがりコーン型、三角形の岩になっていたのだった。

ウェールズでは、北の方は高い山も多く、ダイナミックな地形が広がっている。地形について調べてみると、

「デボン紀の初め(四億年前)までに、陸地の衝突によって土地が押し上げられ、新しい山脈であるウェールズのカレドニアが形成された。」

とある、陸地がぶつかった場所ということで、地層が著しく傾いていたり、波打っていたり、ダイナミックな地球の動きが良く分かる場所が沢山あった。

灰色の海面に、波が描く模様が美しい。海岸線に沿って歩く。相変わらず視界は悪い。

「海岸沿いを歩いていると、迷わないからいいね。」

とミドリが言う。確かに、海岸沿いのトレッキングは、迷う心配がない。左右どちらかに海を見て歩けばいいんだから。陸地の真ん中を歩いているとそうはいかない。これまで、トレッキングの途中でよく迷ったものだ。今日は大丈夫。

 

今日のメニューはカツカレー。カレーは朝から仕込んで、これからトンカツを揚げる。

 

<次へ> <戻る>