天国への旅?

 

坂を下りて、ブロード・ヘイヴンの浜に向かう。標識はここも二か国語。全然違う名前。

 

ウェールズは広くない。面積は四国よりちょっと大きい程度。人口は三百万人強である。山がちで、結構高い山がある。スノードン山は標高千五十八メートルで、グレートブリテン島第四の「高峰」。しかし、九百三十一メートルの六甲山よりちょっと高い程度。英国がいかに平らな国かが分かると思う。

今回の休暇も、またまた英国内で過ごす「ステイケーション」に。(StaycationStay Vacationの造語ね。) 公務員である末娘の休暇と、学校で教え始めた僕の授業の都合で、十月十八日から二十二日に休暇を取ることになった。最初、ギリシアに行こうかという話も出たが、コーヴィッドがまだ治まりそうにないので、国内に決定。一応、ワクチン接種の済んでいるに人間は、検疫なしで他のヨーロッパの国々に行けるのだが、何せ、コロコロと変わるのが、ボリス・ジョンソン首相の方針と政策。休暇で外国に行ったものの、規制が変わって、緊急帰国を余儀なくされた、なんてのも困りもの。そして、これまで、そんなことが度々あったのだ。

ある学校に非常勤講師として就職の決まった八月の後半から、学期の始まった九月は忙しかった。一期分の、シラバスと授業計画の作成、授業の準備をしなくてはならないから。幸い、こちらの学校では、夏休みと冬休みの間に一週間、「ハーフターム・ホリデー」なる秋休みがあり、その時期に合わせて休暇を取ることができるのだ。ちなみに、ハーフタームまではオンライン授業、ハーフターム後は教室での授業となる。最期のオンライン授業を終えた翌日の日曜日、四人でハートフォードシャーを車で発って、ウェールズ、ペンブロクシャーに向かった。

午後三時ごろに「リトル・ヘイヴン」という村にある、貸別荘に着く。この辺りは、「ペンブロクシャー海岸国立公園」の中。「リトル・ヘイヴン」という名前、「Little Heaven」(小さな天国)かと思ったが。よく見ると、スペルは「Little Haven」であった。妻は間違って発音して、その都度、娘に直されている。

「天国へ旅行ってのも、悪くないのにね。」

貸別荘は、海岸を見下ろす高台の上に立っていた。中に入ると、窓から海が見える。これまでちらりと海の見える場所はあったが、リビングの窓いっぱいに、海岸のパノラマが広がるというのは初めて。おまけに新築で、四つのベッドルーム全てに、浴室が付いているという優れもの。スミレが見つけた物件。

「スミレ、すっごく良い所見つけたやん。」

と彼女に賞賛が集まる。

空は曇っているが、まだまだ明るいので、丘の上にある家から、まず隣町のブロード・ヘイヴンへ歩いてみる。リビングの窓から見下ろせる海岸は、このブロード・ヘイヴンである。そこは全長五百メートルくらいの砂浜のある湾だった。黒く細かく、よく締まった砂で出来た浜。波打ち際までは五十メートルくらい距離。風もなく、波も穏やかで、暖かい。

 

貸別荘の窓から見えた、海と空が紫色の染まる夕焼け。

 

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