もう一度来たい場所

 

トーキーの街をバックに、ペダルを漕ぐ若者たち。藁束がショックアブソーバー。

 

二時過ぎに再びトーキー駅に降り立つ。パディントン行の列車の発車は三時五十五分。まだ二時間近く時間がある。僕は朝から何も食べていないことに気付いた。今朝のB&Bの朝食は豪華だった。「フル・イングリッシュ・ブレックファスト」でボリュームも多く、一日のカロリーを全部摂った気がした。しかし、さすがに、午後になるとお腹が空いてきた。昨夜も行った、海岸沿いのレストランに向かって歩く。

海岸道路に沿った公園では、面白い催しが行われていた。「ペダルカー・グランプリ」という幕が掛かっている。「子供が乗って、足で漕ぐ四輪の車」と言ってお分かりいただけるだろうか。三輪車を四輪にしてキーコキーコと漕ぐ玩具。それに大人が乗って、レースをしているのである。リレー形式らしく、一週ごとにドライバーが異なる。公園の周囲のアスファルトの遊歩道を一周するのだが、ベンチにぶつかると危ないので、ベンチが藁束で覆われている。大人が一生懸命に漕ぐ姿は、コミカルで微笑ましい。女性も沢山参加している。レストランで、ビールとステーキで昼食。ロンドン行きの列車の発車時刻まで、公園の芝生に寝転びながら、レースを見ていた。結構沢山の人が、レースを見に来ていた。

三時半になったので、起き出して駅に向かう。一日半の滞在中、コッキントンとSL鉄道の旅に時間を割いたので、トーキーの街を全て見たわけではない。マリーナを望む丘の向こう側には、デボンの海岸を見渡せる良い場所があるらしい。でも、歩いては行けないし、バスの乗り方も調べなかった。何より時間がなかった。次回に残しておくことにする。

アガサ・クリスティーの故郷だが、彼女が生まれ育った家は既に取り壊され、存在しない。彼女が買った別荘が、リバークルーズのときチラリと見えた。今は「ナショナルトラスト」(英国の文化財保護団体)の管理下になっているとのことだ。

僕はトーキーの街を気に入った。訪れるだけでなく、滞在してみたいと思う。

「出来るならば、海の見える場所に住んでみたい。」

というのが僕の夢。今住んでいるハートフォードシャーは、自然に恵まれた場所。起伏があり、森や牧草地、湖もあるが、残念ながら海から遠い。トーキーは、全然ケバケバしくなく、落ち着いていて、小さくまとまっていて、住むには良い場所だと思った。ロンドンから少し時間が掛かるが、交通費、宿泊費は微々たるものなので、是非また来ようと思う。次回は、妻か娘が誰かと一緒に。でも、一人旅も悪くはない。それどころか、僕は独りで海を見ているのが好きだ。海を前にして考え事をすると、考える容量、考えられる範囲、将来に対する選択肢などが、広がるような気がする。

 トーキーの駅に着いて列車を待つ。五十人ほどの人が列車を待っている。間もなく、例の日立製列車の、卵型の先頭車が現れる。復路は、エクスター、スウィンドン、バースなどを通るコースだった。列車は次第に混み始め、ロンドンに着くころには、廊下に立っている人もいた。僕は何度か眠ろうとしたが、妙にアドレナリンが出ていて眠れなかった。四時間後、僕はパディントン駅に降り立った。

 

ロンドン・パディントン行の列車が到着。トーキーを離れる。

 

<了>

 

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