バレーはロシアから

 

最後のカーテンコール。撮影禁止なのでこれは非合法な写真。

 

しかし長い舞台だった。全部で三幕あるのだが、第一幕は約四十分でその後二十五分の休憩。第二幕が約四十分あってまた二十五分の休憩。 そして約三十分の第三幕。七時半に始まった舞台が終り、カーテンコールをパスして劇場を出たのが十一時だった。バルコニーの手すりに寄りかかるようにして見ているのだが、ずっと左側四十五度の方向を見ているので、休憩時間はできるだけ右側を向いてバランスを取るように努める。

現代のミュージカルは、お客さんの帰りの足のことを考えて、十時ごろには終わるようにアレンジされている。どのミュージカルも一時間半ほどやって休憩。その後一時間くらいで終わる。しかし、ヴァーグナーやモーツアルトのオペラには、とんでもなく長く、真夜中までかかるものもある。多分このバレーの作曲者チャイコフスキーも、地下鉄で帰るお客さんのことなど考えずないで作曲したのだと思われる。チャイコフスキーには、もう少し「お客に配慮した姿勢」を期待したいところだ。
 オデットを演じるバレリーナ、アリーナ・ソモヴァは世界的にも有名なプリマドンナだという。針金のように細い女性である。第一幕ではニコリともしないで演じているので、
「ずいぶんお高く止まった人だな。」
と思った。しかし、それには意味があったのだ。アリーナ・ソモヴァは第二幕、黒いチュチュを着て現れる。彼女の今度の役は、オデットに化けてジークフリートを誘惑するオディールの役。そのとたんにコケティッシュな笑顔を見せ始める。ニコリともしない演技はその伏線だったのだと感心した次第。
 白鳥の娘たちの着る、白いチュチュは清楚でよい。男性は皆白いタイツをはいているのだが、女性ほど股の間がすっきりしていない。それに慣れるのに少し時間がかかる。ジークフリート役のダンサーは、エフゲニー・イヴァンチェンコという人。この人に限らず、男性陣は、なんとなく皆動きが「オカマ」っぽく、ゲイバーのお兄さんを思い出して、苦笑してしまう。

バレーはロシアが「本場」だという。最初はフランスの宮廷で発生したが、フランス革命等で、その伝統は失われてしまった。しかし、

「何でもフランス風にやろうっと。」

とするロシアの宮廷にバレーは持ち込まれ、そこで保存され、熟成されたという。つまり現代のバレーの原点はロシアにあるのだ。その最高峰が、このレニングラードのマリインスキー・バレー団と、モスクワのボリショイ・バレー団であるという。

 舞台が終わる。カーテンコールの拍手を聞きながら、スミレと僕は足早に劇場を後にして、レスタースクエア駅に向かった。こってりとした料理をふんだんに食べさされた後のような奇妙な満腹感と、長いお説教を聞いた後のような疲れを感じながら。地下鉄に乗るや否や、スミレは僕の肩を枕にしてグーグー眠りだした。

 

王立歌劇場正面にて、ポヨ子さん。

<了>

 

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