ルーラーのルーラー

 

これが話題の「ルーラーのルーラー」。一ポンド五十ペンスとお得です。

 

 ノリコは売店を覗いている。彼女はハンプトン・コート宮殿の売店で働いているので、どんな物をいくらで売っているのか、興味があるという。基本的に売っているグッズは余り変わらないものの、値段はこちらの方がかなり高めとのことであった。

 ハンプトン・コートの売店では、もうクリスマス・グッズを売っているらしい。

「まだ八月なのに、気が早すぎる。」

と文句を言いながら、それでも買っていく観光客がいるそうな。

 定番グッズの中で、笑ってしまったのが、竹で出来た「線引き」、「定規」である。そこには、目盛りの他に歴代の王の名前が彫ってある。つまり「ルーラー」(為政者)の「ルーラー」(線引き)というわけ。このシャレ、最高。

 午後一時半、ストーンヘンジを後にして、五キロほど離れた「オールド・サラム」へ向かう。ノリコによると、そこは古い城跡で、同じくイングリッシュ・ヘリテージの管理だという。

「お腹が減っってない?」

僕が聞くと、

「ちょっと減りましたよね。」

とのこと。

「握り飯がふたつあるんだけど、一個ずつ食べる?」

「それはありがたい。しかし、モトさん、相変わらずマメですね。」

「デート」をするとき、男が弁当を持ってくるのも、ちょっと変かな。

 お握り一個では足りないので、どこかドライブインかパブに立ち寄ることにする。道路脇を見ると、レストランらしい建物が見えた。昼時だというのに、駐車場には車が殆どなく、外観も何となく薄汚れ、寂れている。

「それにしても、『ひなびた』レストランやね。」

「やってるのかしら。それとも潰れてるのかしら。」

ノリコが窓から覗き込んでいる。一応灯りは点いている。

 玄関から入ってみると、予想していたようなヨボヨボの老婆ではなく、白いブラウスに黒いスラックス、ポニーテールの若い女性が受け付けにいた。

「食事できる?」

と聞くとオーケーとのこと。ふたりはバーの横のテーブルに座り、僕はステーキサンドイッチ、ノリコはエビのジャケットポテトを注文した。

 食事を待っている間、ノリコがイングリッシュ・ヘリテージ発行のガイドブックを見せてくれた。古城や邸宅や庭園、地方毎に写真入りで載っている。まだ行っていないが結構「良さげ」な場所が、ロンドンから二時間くらいの距離にまだまだある。一度行ってみたい。

 

かなり寂れたドライブイン・レストラン。「ウェディング」と書いてあるけど、誰がここで?

 

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