プールサイドで

 

左側が名物チキンライス・・・

 

クリスマスディナーの後で、ワティがキーボードとウクレレを持って来た。音楽の得意な、モニとワティが歌い出し、昔と同じように、食事の後は「ミニ・コンサート」になってしまった。いつもは黒子に徹している、ヘルパーのPさんも、モニの歌の後、盛んに拍手を送っている。その後、ハンさんのカラオケも飛び出し、ワティはエンゾーにまでキーボードを叩かせ、クリスマスの夜は賑やかに過ぎた。

「悪いけど、医者にかかりたいから、パパは早めに英国に戻る。」

翌朝、僕は息子と嫁に話した。妻には前夜、打ち明けていた。「病気の治療」という理由、誰も何も言えないことは分かっていた。妻には、娘たちが返った後、せっかく二人で過ごす時間が出来たのに、独りで置いておくことになり、一番すまないと思った。

皆、それなりに納得してくれたようなので、僕は、昼前にシンガポール航空に電話を架けた。延々、一時間半待たされ、その間音楽を聞かされ続けたが、最後には電話がつながり、翌々日、十二月二十八日の深夜のロンドン行の便に変更できた。この便にしたのには、理由がある。娘たちがその便に乗ることになっていたのだ。帰りも一緒だと、お互い(少なくとも僕は)何かと心強い。これで、急に僕のシンガポール滞在も「あと二日」になった。幸い、早く英国に戻ると決めてからは、気持ちが落ち着き、過呼吸の発作は出なかった。

夕方、下のプールに行って、少し泳いだ後、デッキチェアに寝転がって、目を閉じる。プールには僕だけ。周り人がいないと落ち着く。プールの周囲には木が植えられており、鳥の声が聞こえてくる。しかし、英国や日本のように繊細な声ではない。何せ熱帯に生きると鳥たちである。もっと、大きく、威圧的な声で鳴いている。

モニとゾイも泳ぎに来た。ゾイが僕の横を通った時、

「お義父さん、もうちょっと背もたれを倒した方が、楽ですよ。」

英語でそう言って、僕のデッキチェアの背もたれを調節してくれた。

「優しいんだよな、彼女は。」

僕はつぶやいた。突然、英国から何人もが訪れ、一緒に暮らせねばならない。そんな中で、彼女は常に辛抱強く、優しかった。

「僕たちが大挙して押しかけたら、ゾイがストレスを感じるんじゃない?」

と妻に話したことがあった。しかし、彼女は常に自然体で接してくれた。

「ストレスを感じるかもしれないって、恐れていたのは、ゾイではなく、きっとあなた自身なのよ。」

前日、妻が僕に言った。

「なるほど、僕は自分の心配を、ゾイに転嫁していたわけだ。フロイトの本でその作用を読んだことがあるよ。」

僕は言った。人間の心理というのは面白い。

 

・・・美味しいので、英国に帰ってからも何度も作った。鶏を丸ごと一羽煮込む。

 

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