タイ風焼きそば

 

ロマンチック、と言いたいけど、左側の若い男女は恋人同士ではなく、ご兄弟でした。

 

その日は、プーケット滞在中、唯一天気の良い夕方だった。雲の切れ間から顔を出す夕日が美しい。僕はプールサイドのデッキチェアに寝転んで、本を読み、海を眺め、夕日を眺め、ついでに近くに横たわるビキニの若いお姉さんのお尻も眺めていた。空というのは、晴れ渡っているのも良いが、適当に雲がある方が、変化があって絵になる。僕は何枚も夕日の写真を撮った。妻とふたりでいるところを、結構高価な一眼レフを持った中年の女性がいたので、撮ってもらう。彼女はものすごいアメリカン・アクセント。国を尋ねると、米国はミネソタのミネアポリスから来たとのこと。

「ねえ、妹を一度ここへ連れてきたら。」

と妻に言う。石川県に住む、働き者の義理の妹はまだ海外に出たことがない。おそらく、石川県からもほとんど出たことがないと思う。一度、連れ出して、こんなノンビリした場所で過ごしてもらうのもいいじゃないかと思う。従業員のお姉さんに頼んでビールを持ってきてもらう。ビールを飲みながら海と波を見つめる。そんな時間も、人生には必要だと思うのだが。

 プーケット・タウンからの帰り道、スーリンの街を通ったとき、夕飯を食べに行くレストランを捜して、目星をつけておいた。「波の音の聞こえるレストラン」も良いけど、フルコースは食べきれないし、二人で五千円というのも毎日ではちょっと高い。午後八時、日も沈んで暗くなった頃、車でその店に行く。道路に面していて、屋根はあるが壁はない。もちろんエアコンなどついていない店。ピンクのTシャツの若いお姉さんが、客を引いている。その甲斐もなく、客は僕たちの他、一組だけ。何てったってシーズンオフ。

タイ風焼きそばと、蟹チャーハン、海の幸とタイヌードルのサラダ、海老の塩焼きを注文する。タイ風焼きそばは、シンガポールで最初の日に食べたホッケンミーに似た味。太目の麺、野菜や貝や魚を炒めて、そこから出たスープをたっぷりと吸い込んで、薄めだが、コクのある味になっている。

「どこにお泊まりですか。」

と料理を運んできたタイ人にしては珍しく「ふくよかな」おばさんが聞いてくる。

「ザ・スーリン。」

と答えると、

「え、そんな所に泊まっている人が、ここへご飯を食べに来るんですか。」

と言われた。僕たちのホテルは、この土地でも「ポッシュ」な場所として有名らしい。スイカとマンゴーがデザートとして無料で出てきた。なかなかやるじゃん。値段は前日の夕食の五分の一。隣に「タイ・マッサージ」の店があった。ふたりの女性が、暇そうに玄関に腰を掛けている。昨年の暮れから肩を痛め、三週間前に肩の関節にステロイドを注入する治療を受け、現在リハビリ中の僕。よし、一度マッサージを受けてみようと思ったが、その夜はやめておいた。明日、チャンスがあったらマッサージに行こうっと。

 

これで千円くらいなんだから、若い人がタイを旅行したがるわけだ。

 

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