「ロージー・イフェクト」

原題:The Rosie Effect

ドイツ語題:Der Rosie-Effekt

2014年)

 

 

<はじめに>

 

「ロージー・シリーズ」の二作目。第一作がベストセラーになり、その後書かれた作品。ドンとロージーは無事結婚を果たし、ニューヨークに本拠を移している。ロージーが予想外の妊娠、その他も予想外の出来事が続出、ドンはパニックに陥りながらも、事態の打開を図る・・・

 

 

<ストーリー>

 

結婚したドンとロージーはニューヨークに住み始める。二人は、ニューヨークの街中にアパートを借りた。ドンは、コロンビア大学で遺伝学の講座を担当、ロージーは同じ大学の医学部に通う傍ら、博士論文を仕上げていた。ドンは、オーストラリアで家財道具を売り払い、最低限の物だけを持ってニューヨークに来た。ロージーは大量の服を持ち込み、ニューヨークに着いてからも家具を買いまくっている。几帳面なドンと、大雑把なロージー。ドンは、こんなに違う二人が、どうして楽しく暮らしていけるのか、不思議に思う。

ある日、ドンが地下の共同洗濯機を使っていると、隣人の男が、ドンたちの洗濯物の中に、自分の服を混ぜたことに気づく。ドンの白いシャツが、隣人の濃い色のシャツの色で染まってしまった。ドンがその隣人に文句を言うと、その男は高飛車に出る。ドンは思わず手を出しかけるが、思いとどまる。ロージーは、

「こんなときこそ、あなたの学んだ格闘技の業を使うべきよ。」

と言う。

ドンは、ある日、ジーンから、コロンビア大学の客員教授の口に応募したいという連絡を受け取る。ジーンは五十七歳。かつて、「世界中の出来るだけ多くの国の女性と寝る」というプロジェクトを実行していた。しかし、ドンに説得され、そのプロジェクトを諦め、妻のクラウディアと一緒に暮らすこと一度は誓った。しかし、出張中にまたもや別の女性と関係を持ち、それが妻にバレて、とうとう家を追い出されてしまったという。ドンは、ジーンの保証人になることを引き受ける。ジーンはすぐにニューヨークへ向かうと言う。そして、しばらくドンのアパートに住まわせてくれという。

ドンは前回ニューヨークを訪れた際、野球場で出会った、デーブと懇意にしいていた。デーブは、冷蔵庫の技術者だった。彼の妻のソニアとも、ドンは仲良くしていた。ソニアは妊娠していた。デーブは自分の会社を持っていたが、その経営は、上手く行っていなかった。

ドンは、ロージーがジーンを嫌っているのを知っていた。ドンは、ロージーが機嫌のいい時に、ジーンのことを切り出そうと、チャンスを狙っていた。ある夜、ロージーは何時になくご機嫌。ここぞと思って、ドンが話そうとしたとき、ロージーが言った。

「わたし、妊娠したの。」

ドンとロージーの間で、これまで、子供を作るのは、ロージーが医学部を卒業するまで待つということで、話がついていた。そして、ロージーはピルを飲んでいたはず。少なくとも、ドンはロージーが毎日ピルを飲んでいると思っていた。ドンは、どうしていいか分からず、パニック状態になり、表に走り出る。彼が向かった場所はデーブの家である。ソニアは、

「一体、何かあったの。」

と尋ねる。

「俺には精神的な問題があるんだ。二十代の半ばに鬱病になったとき、自分の精神は、他人とは設定が違うこと気づいた。時々、『システム崩壊』が起きるんだ。それが今、起きつつある。」

と、ドンは説明する。その「システム崩壊」は、ロージーと出会ってから、今回初めて起こったとドンは言う。

「ロージーには暴力は振るっていなんだろ。それなら大丈夫だ。」

デーブはドンを鎮める。ソニアがロージーに電話をして、何か話している。ソニアは電話をドンに代わる。ロージーは子どもを産むつもりであることドンに告げる。ドンは次第に落ち着きを取り戻す。

デーブもドンに助けを求める。彼は今、奇妙な仕事を請け負っていた。英国人のアパートに、ビールの貯蔵室を作ったと言う。そこに一度一緒に来てくれないかというものだった。

ドンがアパートに戻ると、ロージーが抱きつく。ドンは、問題が解決したと感じる。ジーンの問題を除いて・・・

 全てをスケジュール通りにこなすことで、生活が成り立っているドンにとって、ロージーが「スケジュール外」で妊娠したことに納得がいかない。ドンは、ロージーにどうして妊娠したのかを問いただす。

「ピルを飲み忘れたのかも。」

とロージーが言う。何時飲み忘れたのかと更にドンが尋ねると、

「『忘れた』ことを『覚えてる』訳がないじゃない。あなた馬鹿じゃないの。」

とロージーが怒り出す。

「ともかく、子供が出来るまで今後九カ月間のあなたの義務は、わたしにストレスを与えないことよ。分かったわね。」

ドンはそれに従わざるを得ない。ドンは、またも、ジーンの来ることを言いそびれる。

 ドンは、デーブに頼まれた、「ビール貯蔵室のあるアパート」を見に行くことにする。アパートは、三十九階と四十階にまたがり、下の階にビール貯蔵室が作られ、上の階にはオーナーの英国人ミュージシャン、ジョージが住んでいた。ジョージは、アパートに冷蔵設備を持った貯蔵室を作るために、デーブに一万ドル以上を支払っていた。しかし、デーブは、ビールについては詳しくない。バーテンダーの勉強をしたドンは、ビールの最適温度を心得ていた。それは華氏四十五度。その知識でオーナーの信頼を得たドンは、貯蔵室の管理を任されることになる。

アパートに戻ったドンに、アパートの管理人が話しかける。

「あるアパートの住人が、あんたに暴力を振るわれたと言ってるんだが。」

それは洗濯物でトラブルを起こした男であった。

「攻撃してきた方は向こうで、俺は合気道の業で逃れただけだ。」

とドンは言う。

「このアパートを借りたい人は山ほどいるんだ。」

管理人は、ドンに圧力をかけてくる。

 ジーンの到着が近付き、ドンは、ジーンが来て一緒に住むことをロージーに話す。ロージーの拒絶反応は、予想以上のものであった。

「あの糞野郎のいる場所はここにはないわ。第一、こんな狭い所に三人も住めるわけがないじゃない。」

とロージーは言う。

 その夜、ロージーとドンは、何時ものようにバーテンダーの仕事に行く。バーの経営は思わしくなく、最近、経営者は次々と従業員をクビにしていた。つわりで気分が悪くなったロージーは早退し、ドンは独りでバーを担当する。そこに若い女性と、取り巻きのグループが現れる。ドンはその女性客とトラブルを起こし、自分もクビになってしまう。ドンは頭を抱える。

彼には自分の抱える問題を列挙してみる。

@    一日に二度、ジョージのビール貯蔵室の温度チェック

A    ジーンの宿探し

B    隣人とのトラブル

C    赤ん坊が生まれてきてからの問題

D    バーでのアルバイト代が入らないことによる収入減

E    自分の精神状態

これらを一挙に解決する、「ゴルディオスの剣」的な解決方法・・・それを思いつく。

 翌朝、ロージーが学校に出かけてから、ジョージはアパートの荷物をまとめ、デーブのライトバンに積んでジョージのアパートに向かう。そして、ビール貯蔵室のある、下の階に荷物を持ち込む。そこはビールの貯蔵室を除いても、それまでのアパートより格段に広かった。そこで、ビール貯蔵庫の管理をしながら、ロージーとジーン、その後は赤ん坊も一緒に住むというのがドンのアイデアだった。前のアパートを出る前、ドンはアパートの写真を撮り、ロージーの荷物を前のアパートと寸分同じに並べた。夕方、ロージーを連れに行く。新しいアパートについたロージーは、その広さと、眺めの良さに感激する。

 数日後、ドンは、友人の老夫婦、アイザックとジュディーと、日本レストランで食事をすることになっていた。ロージーはそれに参加できなかったが、アイザック夫妻の知り合いの二人が来ることになっていた。セイモアとリディアという男女が現れる。それぞれ料理を注文することになり、ドンは、本マグロの刺身を頼む。それを聞いて、リディアが怒り出す。

「本マグロは絶滅危惧種よ。」

「このマグロは既に死んでいる。僕が注文しようがしまいが、死んでいることに変わりはない。」

とドンは答える。

「個人が少しでも何かをしないと、地球の温暖化は食い止められないわ。」

とリディア。

「僕は車に乗らないし、地球の環境保護のために十分なことをやっている。」

とドンは言う。二人の口論は激高していく。

セイモアが、

「はっきりと物をいう人間も必要だ。」

とドンを擁護し、今度はリディアとセイモアの口論になる。

「私はソーシャルワーカーなの。あんたのような偽善者は山ほど知っているわ。あんたの性格は異常よ。子供のときに何かトラウマがあったのね。子供なんて作っちゃだめよ。」

ドンにそんな捨て台詞を吐いて、リディアは席を立ち、店を出て行く。

 ドンは、父親になることに関し、人生最大の心理的な試練に立たされていると感じていた。そこへジーンが到着する。ジーンを嫌っているロージーの態度は冷たい。

「で、何時まで、ここに居るの?私が妊娠しているって知ってるんでしょう。」

とジーンに言う。

「知らなかった。おめでとう。」

ジーンは得意の話術で、ロージーを懐柔しようとする。ドンは、ジーンに、

「いい加減に、生き方を変えろ。」

と忠告する。

 妊娠したロージーは、食べ物の嗜好が変わる。夜になって急に、

「燻製の鯖が食べたい。」

と言い出す。ドンは、深夜の町で、燻製の鯖を売っている店を探す。ようやく見つけて、ドンがアパートに帰ると、ロージーは眠っていた。

翌日、寝不足のドンは仕事を休む。彼は、自分が子供を持ったら、どんな父親になるかを、ずっと考えていた。彼は子供を観察するために公園に行く。そこで、遊具で遊ぶ子供たちを観察していた。そのとき、二人の警官がドンに近づく。警官はドンを逮捕し、警察署に連行する。ニューヨークの法律では、子供の遊ぶ場所には、子供を連れた人間しか立ち入ることが出来ないことになっていた。一人でそこにいる人間は、「小児性愛」の容疑者として、逮捕されるのだった。

警察に連行され、取り調べを受けたドンだが、後日、カウンセラーによる鑑定を受けることを条件に釈放される。ドンは数日後に、警察から指定された病院に出頭することを義務付けられていた。アパートに戻ったドンは、そのことをロージーに話さなかった。ドンがデーブに相談すると、彼も、警察に逮捕されたことはロージーに話さない方が良いと忠告する。ドンは数日後、指定された病院に出向く。そこで彼を担当するソーシャルワーカーと会う。その女性は、数日前に、彼と口論をし、喧嘩別れしたリディアであった。リディアはドンに言う。

「あんたが、父親として不適格だと私が判断したら、産まれて来た子供は、あんたから離されるわ。次は、あんたの奥さんと一緒に来なさい。あんたの奥さんの話を聞いてから決めるから。」

 ロージーは博士論文の執筆でも、壁に突き当たっていた。それに妊娠。彼女は最近よく眠れないとドンに打ち明ける。ロージーは、子供が出来ても、学業を中断したくないと言う。ドンは、それとなく、ロージーに鬱病のテストを行うが、心理学を勉強したロージーに簡単に見破られてしまう。懲りないジーンは、三十歳以上年下の、博士課程の女子学生、インゲに手を出し始めていた。

 ドンがロージーを連れて、カウンセラーのリディアに会う日が近付いていた。ドンは、公園での出来事をまだロージーに話していない。考えた末、ドンは、デーブの妻のソニアに、ロージーの替え玉を演じてもらうことを思いつく。ドンがデーブを助けたことを恩に来ていたソニアは、しぶしぶロージーを演じることを了解する。

 ドンはソニアと打ち合わせをして、リディアとの面談に臨む。ソニアはミラノ出身のイタリア系アメリカ人ということになっていた。ソニアは、打ち合わせ通りに、

「子供ができても、学業は中断する気はない。」

と言う。そこをリディアに突かれ、ふたりの答えは、だんだんとしどろもどろになってくる。何とか、辻褄を合わせ、ふたりは面談を終える。別れ際、ソニアはドンに、自分は噓をつくのが嫌いなこと、また、彼女とデーブの間にも、もう十分に問題があり、これ以上問題を持ち込まないでくれとドン頼む。そして、子供のことにもっと親身になって、ロージーをもっと助けてあげてと言って去って行く。

 ドンは、妊娠が分かってから六週間経つのに、自分が何もしていないことに気づく。彼は、本を買って勉強することにする。彼の買った本は、「妊娠と出産、あなたが知るべき全てのこと」と言うタイトルだった。彼はその本を読み、妊娠中の食事の大切さを知る。彼は、ロージーのために、完璧な妊婦用の食事を作り、ロージーにそれを食べることを命じる。

「わたしは食べたいものを食べるわ。干渉しないで。」

とロージーは言う。

「これはお腹の子供の為なんだ。お腹の赤ん坊は、半分は僕のものだ。僕にも半分の権利がある。」

とドンは言う。彼はその他にも、アルコール、カフェイン等、ロージーの食生活に制限を設けたがる。

「分かったわ。夕食はあなたの言うものを食べるわ。でも、それ以外の食事は私が好きな物を食べる。それでいいわね。」

ドンは妥協せざるを得ない。ドンは更に、直ぐに医者に行くようにロージーに勧めるが、ロージーは自分でやるから放っておいてと言う。

 ドンはある日、ジーンのパソコンがスカイプを受信しているのに気付く。ドンがそれを取ると、ジーンの九歳になるユージーネからのものだった。ユージーネは、弟のカールが、父親の浮気癖について知り、

「今度パパに会ったら殺す。」

と言っていると告げる。

ロージーは、博士論文が進まないので焦っていた。彼女はワインを飲もうとする。ドンがそれを止めると、ロージーは、

「ワインを飲めないのら、煙草を吸うわ。」

とドンを脅し、ワインを飲むことを認めさせる。そんなとき、ロージーの父親(血はつながっていないのだが)フィルから小包が届く。その中には指輪が入っていた。それは、ロージーの母親のものだった。フィルは、結婚一周年に、母親の指輪を、ロージーに贈ったのだった。

 ロージーとドンの結婚一周年記念の日が迫っていた。ロージーは、結婚記念日のオーガナイズは自分がするから、ドンは、昼間、友だちとどこかに出掛けるように言う。夕方、ドンが家に戻ると、料理の苦手ははずのロージーが料理をしている。ドンが慌てて手伝いに台所に入ろうとするのを、ジーンが止める。

「料理より、もっと大切なことを考えろ。お前はバルコニーで待っていろ。」

そう言って、ジーンはアパートを出て行く。ドンがバルコニーで待っていると、ロージーは料理を持って現れる。何と、ロージーはウェディングドレスを着ていた。その効果は抜群だった。料理はモッツェレラとトマトのサラダ、そしてなんと、マグロの刺身だった。

「最もパーフェクトな妻に乾杯!」

ドンは「最上級の意味のあるパーフェクト」に更に「最上級」をつけることは文法的に誤った表現だと知りながら、そう叫んで乾杯する。

 ロージーは、同級生と一緒に過ごすから、ドンも男友達と飲みに行くように勧める。ドンが家に戻ると、ロージーは眠っている。テーブルには、宅配のピザの箱があった。そのピザは、肉入りのものだった。ロージーはヴェジタリアンだったのに。ドンはいぶかしく思うが、ロージーには何も尋ねないでおく。

ドンは、リディアと二回目の面談に臨む。今回も「ロージー」として、ソニアが同行する。自分も妊娠しストレスが溜まっていたソニアは、面接の席で、怒りを爆発させてしまう。それがかえって功を奏し、リディアの共感を得ることができ、ドンは「良い父親になるためのコース」を受講することを条件に、リディアのカウンセリングから解放されることになる。

 ドンは、生まれてくる子供に対して、どのような準備をすればよいのかを考える。そして、子供を守るために、乳母車は最高の物を買おうと考える。彼は、騒音を遮断し、しかも通気性の良い乳母車を求めようとする。しかし、そのようなものは売っていない。彼は、オーストラリアで、DIYの材料を商う父親に電話をし、特殊な材料を使って、自分の考えに合った乳母車を作ってくれるように頼む。父親は、自分に孫が出来ることを驚き、喜び、その依頼を受け入れる。

次に、ドンは学長に掛け合い、自分を、「レスビアンの母親が子供を持つこと」に対する研究グループに、自分を入れてくれるように依頼する。赤ん坊に対する知識と、その扱い方を勉強しようと思ったのだった。そのプロジェクトには、三人のレスビアンの女性が既に参加していた・・・

 

 

 

<感想など>

 

前作の「ロージー・プロジェクト」を読み終え、この本を読み始めたのがほぼ一年前。その後、実に色々なことがあり、丸々一年間を要してこの本を読み終えた。ここ一年間、中国語を熱心に勉強したことが、本を読まなくなった、いや、読めなくなった最大の原因だと思う。過去一年間に、私は二度の中国語検定試験を受けた。そして、それまで読書に使っていた時間を、その勉強のために振り向けていたのだった。この本も、後二百ページほどを残して、数カ月間放置されていた。この本を読み終えることになった原因が、思いがけない入院だった。急な入院だったので、僕はこの本と携帯しか病院に持って行かなかった。残りの二百ページは入院後三日で読まれた。この本を見るたびに、私は入院と、そのとき受けた手術のことを思い出すだろう。

しかし、長らくこの本が読みかけのまま放置されていた原因は、この本自信にもあると思う。途中で、読む気を失ったのだ。前作の「ロージー・プロジェクト」は出色だった。しかし、続編のこの本は・・・正直、前作ほどのインパクトを私に与えなかった。娘はシムションの「ロージー三部作」を全部読んだが、

「第一作はおもしろい、第二作はイマイチね、第三作でまた面白くなるから。」

と言っている。この本に共感を持てなかった一番の理由は、ドンの考え方についていけなかったことにある。彼は自他とも認める「平均的でない」人間である。考え方がどこか「ぶっ飛んで」いる。「自分だけに通じるロジックを組み立て、それに邁進する」「全て論理的に考え行動しようとし、他人との協調性を著しく欠く」そんな人物である。第一作だと、そこが面白いと感じられたのだが、第二作になると、それがだんだん極端になり、最後には、着いて行けなくなってしまった。ソニアを使っての「ロージー替え玉作戦」などは、はっきり言って、その必然性に対して、理解に苦しむ。しかし、その「平均的でない」、「ぶっ飛んで」いる考え方、行動で、彼自身が墓穴を掘ってしまうと展開になっている。

 処女作がベストセラーになった後の第二作・・・作者としても難しいと思う。新しい展開を狙って、作者は今回、舞台をオーストラリアのメルボルンから、ニューヨークに移してきている。ドンとロージーが結婚してから、ちょうど一年経ったという設定である。これはある程度成功している。もし、前回と同じオーストラリアでストーリーを運ばれたら、ドンとロージー、それにジーンの基本的な設定が変わっていないだけに、退屈してしまい、ちょっとついて行けなくなっていただろう。舞台を変え、前回から登場する、デーブ、ソニアに、新しいリディア、ジョージという人物を織り交ぜ、ストーリーは展開する。

 最大の笑いは、「子供を持つこと」、「父親になること」など、人間の営み、生物学的な部分を、ドンが彼なりに、「論理的に」理解しようとすることであろう。彼は「論理の人」、「箇条書きの人」である。長い人間の歴史の中で培われた営みに、ロジックを当てはめようとするドンが滑稽ではあるが、「人間の営みって、ひょっとしたら全てロジックで説明できるのでは」とまで思わせるところが、秀逸である。否定的な感想から書き始めたが、それは第一作と比べてしまったからで、単体として取り上げると結構面白い本。楽しめたし、読後感も良かった。「ロージー・シリーズ」の第三作目も、是非読んでみようと思う。

 

202211月)

 

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