クリストファー・カールソン

Christopher Carlsson

1986年〜)

ハルムスタッド出身、作家、犯罪学者

 

2013年、イェーテボリ、ブックフェアのパンフレットより。

 

クリストファー・カールソンの写真を見ると、「坊ちゃん坊ちゃん」している。そして、作品を読んでみると、若い人が書いたと直ぐに分かる「初々しさ」、「みずみずしさ」がある。カールソンは、二〇一三年、二十七歳でスウェーデン推理作家アカデミー賞を受賞した。最年少であった。

彼は、スウェーデン西海岸のハルムスタッドで生まれ育ち、ストックホルム大学で犯罪学の学位を取得。卒業後は、暴力的な過激主義から民主主義を守るために、スウェーデンの国家コーディネーターとして活動、また犯罪学の研究者として活動している。研究者としても、彼は二〇一二年に、国際犯罪学協会の「若手犯罪学者賞」を受賞しているという。(1

彼の作品は、同じく犯罪学者で、スウェーデン犯罪小説界の大御所である、リーフ・ペルソンからも絶賛されている。彼は十一歳で最初の作品を出版社に送り、二十三歳でデビュー作、「Fallet Vincent Franke(ヴィンセント・フランケ事件)」を出版、続いて「Denenögdakaninen(一つ目のウサギ)」がリリースされている。そして、二〇一三年、警察官レオ・ユンカーを主人公にしたシリーズの最初の小説を発表。その第一作「Den osynlige mannen från Salem (サレムから来た見えない男)」で、見事、同年のスウェーデン犯罪作家アカデミー賞に選ばれている。また、その本は、二〇一四年に北欧全体の犯罪小説の賞として有名な「ガラスの鍵賞」の最終候補にもなった。

シリーズの第二弾「Den Fallande Detektiven(堕ちた刑事)」は二〇一四年に出版され、続いて「Mästare, väktare, lögnare, vän (師匠、保護者、嘘つき、友人)」が二〇一五年に出版されている。二〇一六年、カールソンは青少年向けに彼の最初の本を書いている。「Oktober är den kallaste månaden(十月は最も寒い月)」は、出版後まもなく、ウェーデンの犯罪作家アカデミーによって「若い読者のための最優秀犯罪小説」に選ばれた。二〇一七年、カールソンはレオ・ユンカーに関するシリーズ四番目の「LineDen tunnablålinjen(青くて細い線))で終えた。その後、最新のサスペンス小説として、「嵐の中」が二〇一九年発表されている。

 

さて、受賞作の「サレムから来た見えない男」である。(2e

ストックホルム。レオ・ユンカーがアパートで目を覚ますと、パトカーが建物の前に停まっている。彼は警察官であるが、停職処分を食らっていた。廊下に出ると、警官がいる。レオは自分が停職中であることを隠して、殺人現場となった部屋に入ることに成功する。彼のアパートの下の階が、ホームレスのためのホステルになっていた。そこに泊まっていた二十代の若い女性が、射殺死体で発見された。ベッドの中で女性はこめかみを撃たれて死んでいた。レオはその女性が握っているネックレスを見る。レオにはそのネックレスに見覚えがあった。

十六年前、十五歳のレオは、ストックホルム郊外のサレムという町に両親と一緒に住んでいた。サレムは、首都のベッドタウン、高層アパートが立ち並んではいるが、労働者階級が住む荒れた町であった。彼のアパートから、すぐ近くに立つ給水塔が見えた。塔にはらせん階段が付いており、誰でも上まで登れた。

ある日、高校生のレオが給水塔の上まで登ってみると、目を撃ち抜かれた鳥が死んでいた。その場に、空気銃を持った若者が現れる。レオにはその若者に見覚えがあった。彼はレオの高校で、ひとつ上の学年にいる生徒であった。その若者は、ヨン・グリムベリだと自己紹介をし、「グリム」と呼んでくれという。ヨンは前年の出席日数が足らず、レオと同じ学年をもう一年繰り返すことになった。二人は意気投合する。ヨンは、学校への出席率も悪く、酒を飲み、バンダリズムにも加わっていた。それから一年間、ふたりは、サレムの街中を、ちょっとしたギャング気取りで荒らしまわる。

ヨンの両親の住むアパートは、レオのアパートのすぐ近くであった。ある夜、レオとヨンがベンチでビールを飲んでいると、少女が通りかかる。ヨンは、その少女を自分の妹のユリアであると紹介する。レオの一学年下で十五歳、大人と子供が同居したようなユリアにレオは魅かれる。

ヨンの父親クラスには前科がありアルコール中毒、母親ディアナはユリアが生まれて以来、うつ病で働くことができなくなった。ヨンは、両親に代わって、ユリアの面倒を見ていた。ヨンは、身分証明書の偽造を得意としていた。彼は、同級生の身分証明書の生年月日を巧妙に書き換え、年齢を詐称してクラブに出入りしたり、酒を購入したりする手助けをしていた。その偽造は、高校生のやったものとは思えない実に巧妙なものであった。レオとユリアはそれから、定期的に電話をし、会うことを始める。

警察官となったレオは、数か月前、麻薬の密輸現場を押えるため、ゴットランド島のヴィスビューの港にいた。彼は他の警官と共に、物陰に隠れ、警察への内通者が、麻薬を受け渡すのを待っていた。まさに取引が行われようとした際、銃声が起こる。麻薬の密売人たちと警官の間で銃撃戦が始まる。その中で、レオは誤って同僚の警官を射殺してしまう。警察の作戦の失敗のスケープゴートのような形で引責されたレオは、起訴は免れるが停職処分となる。彼のアパートで、若い女性が殺されたとき、彼が停職中であったのはそのためであった。

レオは、女性の殺人事件の捜査班のリーダーであるガブリエル・ビルクから電話を受ける。ビルクはレオが死体のある部屋に入ったことを知っていた。ビルクは死体を見たとき、死体に触れなかったかとレオに尋ねる。レオはそれを否定する。また、ビルクは死体が何かを握っていなかったかと尋ねる。レオは、死体はネックレスのような物を握っていたと答える。

レオは、殺人事件が自分の過去に関係しているのではないかと考え始める。そして、独自に捜査を開始する。彼は自分の永年のカウンセラーであるチャールズ・レヴィンを訪ねる。そして、彼に自分の疑いについて話をする。

レオは殺されたレベッカ・サロモンソンが麻薬をやっていたことを知り、かつて警察の内通者であった麻薬の売人フェリックスを訪れる。そして最近彼女の金回りが良かったことを知る。レオは、裏の世界の事情を知るための、最高の人物を知っていた。それはかつての恋人、サムであった。サムは刺青の彫り師をしていた。彼女の仕事場には裏の世界の人間が常に出入りしていた。サムは仕事をしながら、彼らの会話を聞く機会が多かったからだ。レオとサムはしばらく一緒に暮らし、サムは妊娠したが、交通事故で流産してしまう。それがきっかけで、ふたりの関係は気まずくなり、数か月前にふたりは別れていた。レオはサムに会ってくれるように頼む。

殺されていた売春婦、レベッカ・サロモンソの握っていたネックレスに、レオの指紋が発見される。レオは重要参考人として警察に呼ばれる。ビルクにより取り調べを受け、マスコミにも容疑者として扱われる。そのネックレスは、十年以上前、当時のガールフレンドのユリアが持っていたものだった。しかし、指紋が何時ついたかを調べる技術から、レオの指紋が十年以上前のことであることが分かり、レオは釈放される・・・

 

ここ五年くらいのスウェーデンの犯罪小説の傾向として、事件を解決しようとする刑事が、実は、事件の当事者であった、過去にその原因を作っていた、というパターンがある。例えばアルネ・ダールの「Utmarker」(郊外)」など。この小説も、まざに、その線を言っている。小説は、主に、レオ・ユンカー自身の一人称で語られている。なかなか思わせぶりな語りである。それもそのはず、彼は事件が、自分の過去に関係のあることを最初から気付いているのである。

ふたりの語り手がいる。ひとりの語りは斜字体で書かれているので、間違えることはない。しかし、現在の出来事と、十六年前の主人公がまだ高校生であった頃の出来事が、モザイクのように入り組んで、語られる。これは読んでいてかなりややこしかった。しかし、前半でその複雑さに慣れてしまうと、物語自体は実に精緻に組み上げられており、後半は引き込まれてしまう。

ティーンエージャーの頃の同級生に対する「苛め」がストーリーの出発点となっている。これは、最近のスウェーデンの犯罪小説で、結構よく出て来るパターンである。前述のアルネ・ダールの作品も、学校時代のいじめの復讐というテーマであった。スウェーデンでも学校の中での「いじめ」が社会問題になっていることがこれらか窺える。十五歳から十六歳の主人公が、回想の形で描かれる。いじめ、飲酒、暴力、それらが日常的に行われる様が描写される。それらは、生き生きとしていて、自然である。それもそのはず、この作品が書かれたときに、作者のカールソンは若かったのだ。青春の真っただ中で書いていたわけで、描写が出色であることもうなずける。

犯人捜しの魅力はない。半分もいかないうちに、犯人が誰であるかが示唆され、それが後で覆ることはない。しかし、表の世界から姿を消し、「見えない人間」となった男を、どのようにして探し出すのかが、ストーリーの興味となっている。題の「サレムから来た見えない男」は、この小説の全てを凝縮したものである。ストックホルムで起こった事件だが、全てはサレムに関連し、見えない男が糸を引いているのだ。

先ほども述べたが、最初、複雑な構成に戸惑い、なかなかストーリーが把握できなかった。しかし、そこはちょっと凝りすぎの感がある。しかし、一度、構成を理解してしまうと、かなり奥の深い、面白いストーリーであることが分かった。しかし、二十代の人間がこの小説を書けたという事実は、驚嘆に値する。カールソンは、まだまだこれからの作家のようで、彼の経歴をウィキペディアで調べようとしても、彼の項目自体がまだなかった。同名のサッカー選手は載っていたが。スウェーデン犯罪小説界の「若手の旗手」、例えばヨハン・テオリンなどが五十歳を超えてしまった今、カールソンは、本当の意味での「若手のホープ」と言える。

 

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(1)    http://ahlanderagency.com/authors/christoffer-carlsson/

(2)    Der Turm der toten Seelen, Penguin Verlag, 2016, Müunchen

 

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