アルネ・ダール

(Arne Dahl)

1963年〜)

ソレントゥーナ出身、作家、文芸評論家

 

ウィキペディア、スウェーデン語版より。

 

 アルネ・ダールは、作品の映像化ということで最も成功した、スウェーデンの作家のひとりであろう。その意味では、映像化に向いている、テンポの速い、サスペンスに富んだ作品を書ける人である。しかし、彼の作品は、同時に人間模様、人情味にも富んでいる。

アルネ・ダールはジャーナリストであり、文芸評論家でもあるヤン・アーナルド(Jan Arnald)が犯罪小説を書く際に用いるペンネームである。アーナルドは、一九六三年生まれ、何とノーベル文学賞選考委員会の一員も務めている。(最近ケチが付いて、一年間ブランクになってしまったが。)一九九八年より、アルネ・ダール名で、犯罪小説のシリーズを刊行している。多作ではない。一年に一作のペースをほぼ守っている。(1

彼は最初に、「A-gruppenAグループ)」、スウェーデン警察の特殊捜査班を主人公にしたシリーズを二〇〇七年まで、十一作発表した。「七人の侍」ならぬ、七人の選抜された凶悪犯罪専門の捜査班が、独自に困難な凶悪犯罪事件に取り組むシリーズである。捜査班には、個性的で魅力的なメンバーが揃っている。まさにチームワークが発揮されるが、各メンバーの性格や私生活も、実に丁寧に描かれている。テレビ映画化されたシリーズは、スウェーデンのみならず、英国やドイツでも放映され、好評を博した。(2)(3

 

テレビ映画シリーズのAグループのメンバー。真ん中の女性がリーダーのジェニー・フルティン。(イレーネ・リンドが演じる。)

 

ダールは、その後、二〇一一年から二〇一四年まで「オプコップ」シリーズを四作発表。二〇一一年の「Viskleken(ささやき)」で、スウェーデン犯罪小説作家アカデミー賞を受賞している。

さらに、サム・ベリアーとモリー・ブロムが主人公になるシリーズを二〇一六年から三作発表し、現在に至っている。新しいシリーズの第一作は、「Utmarker」である。(4)「郊外」という意味。人里離れた、ストックホルム郊外の別荘から始まる物語だ。

 

高校生の頃、身体障害ゆえに、理不尽で陰湿ないじめを受けた男の、復讐の物語である。その男が犯人であることは、物語のちょうど真ん中辺りで分かってしまう。もう、どんでん返しはない。高度な知能を持ち、周到な計画を練った犯人に対し、それを追うサムとモリーのコンビの追跡劇が描かれる。犯人のヴィリアムは、時計の修理を趣味としている。修理だけではない。自分で時計を組み上げることができる。その時計の歯車のように、数々の要素が、正確に絡み合ってひとつの目的に向かって動いていく。

犯行現場に残された全ての物が、犯人からのメッセージである。サムとモリーはそのメッセージを紐解いていく。ヴィリアム、サム、モリーは同じ時期に同じ高校に通っていた。そのときの記憶が、犯人からのメッセージを解く鍵となるからである。

この本を読んで誰もが感じることは、

「学校時代に虐められたことに対して、普通そこまで復讐するか?」

という点であろう。虐めは悪いことである。しかも、身体に障害を持つ弱者に対する虐めは陰湿な行動である。しかし、当時は皆十五歳。子供なのである。そのときにされたことに対して、二十年近く経ってから、これだけ壮大な計画を立てて復讐するというのは、いくら何でもちょっと考え難い。

 それと、

「刑事警察と治安警察は協力しないの?」

という点。サムの属する警察の凶悪犯罪課はナタリー・フレデン、つまりモリーのことを犯人だと考えて彼女を逮捕した。モリーは、治安警察の覆面捜査員である。一方、治安警察は、サムを犯人であると考えて追っている。いくら何でも、同じ警察署内で働いているのだから、もうちょっと協力してもいいのではないかと思ってしまう。

 しかし、以上のような不自然さを補って余りある迫力と、説得力がこの物語にはある。現在、時計はほとんどデジタルであるが、ほんの五十年くらい前からは、全てがメカで動いていた。腕時計というあの小さな空間の中に、数々の極めて小さな歯車やばねが組み合わさって、時間を刻んでいたのである。その「時計」がこの物語の底流にある。サムの趣味は、古い時計の修理である。彼は、それを高校時代、同級生のヴィリアムから学んだ。犯人のヴィリアムが、その時計の歯車のように、様々な出来事の実現を予測し、それを巧みに組み合わせ、ひとつの方向に持って行こうとしている。その時計の中の機械仕掛けのような、精巧さ、まさに「カチカチ」と時を刻むような切迫した様子が読者に迫って来る。

 

***

 

(1)    ウィキペディア英語版、Jan Arnaldの項。

(2)    ウィキペディアドイツ語版、Jan Arnaldの項。

(3)    スウェーデンのテレビ局SVT、ドイツのテレビ局ZDF、共同制作の「Arne Dahl」シリーズのDVDを参考にした。

(4)    Sieben Minus Eins, Piper Verlag GmbH, München/Berlin, 2016

 

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