オーサ・ラーソン

ÅsaLarsson

1966年〜)

作家、税務弁護士

 

ウィキペディアより。

 

スウェーデン人の作家「ラーソン」と言うと、大多数の人が、「ドラゴン・タトゥーの女」、「ミレニアム三部作」のスティーグ・ラーソンを思い浮かべると思う。しかし、もうひとり女性作家に「ラーソン」がいる。オーサ・ラーソン。彼女は、スティーグ・ラーソンの二年前の二〇〇六年と、二〇一二年の二回、スウェーデン推理作家アカデミー賞を受けている。

一九六六年生まれのオーサ・ラーソンは、税金対策の弁護士をしていた。そして、彼女の小説の主人公、レベッカ・マルティンソンも、全く同じ職業という設定。ラーソンの生まれはスウェーデン北部のキルナ(Kiruna)。そして、主人公も同じ設定。このキルナという町だが、地図で見ると、スウェーデンの最北端、北極圏に属しており、それより北に、もう町はない。冬はマイナス二十度にもなるという、

「よく、こんなところに人が住んでいる。」

と感心するような場所。元々は鉱業の町だというが、現在は、オーロラが見え、アイスホテルという氷で出来た宿泊施設などもあり、冬でも観光客が絶えない場所らしい。(1

ラーソンはフェミニスト(女性解放主義者)である。女性作家ということもあって、物語で活躍する人物は女性のみ。

「この人、男性は嫌いなの、男性に恨みがあるの?」

と問いたくなるくらい、徹底して女性偏重のストーリーが展開される。

 二〇〇四年に発表された、「レベッカ・マルティンソン」シリーズの第二作「Det blod som spillts(血の飛沫)」だが、作者はこの作品で、スウェーデン推理作家アカデミーに輝いている。(2

 

「キルナの教会で夏至の夜、女性牧師ミルドレッド・ニルソンが死体で発見される。彼女は自分の働く教会の礼拝堂で、顔の形が変わるほど殴られ、教会のオルガンに鎖で吊り下げられていた。

 前任の牧師である、ヴィクトル・ストランドゴルドも二年前に殺されていた。その事件に関わった弁護士のレベッカ・マルティンソンは、正当防衛で三人の犯人を射殺してしまう。そのトラウマから仕事を休み、しばらく療養していたレベッカだが、九月のある日、自分の勤める法律事務所のパーティーに顔を出す。その席で、彼女は上司に仕事を再開しないかと勧められ、手始めに、ユカスイェルヴィ教会の財産管理の仕事を任される。

彼女は同僚と共にキルナへ向かう。キルナはレベッカの生まれ育った土地でもあった。彼女は教会で、殺されたミルドレッドの後任であるステファン・ヴィックストレームと会う。殺されたミルドレッドの官舎には、彼女の夫がまだ住んでいた。官舎の明け渡しを要求しに行ったレベッカは、ミルドレッドの持っていた教会の鍵束を夫から受け取る。その鍵のひとつに、教会の事務所にある金庫の鍵があった。レベッカが金庫を開けると、そこにはミルドレッドに対する数通の脅迫状が入っていた。殺された女性牧師は、何者かに脅されていたのだ。彼女はその脅迫状を警察に渡すことにする。

 レベッカはキルナの街の、倉庫を改造した安宿に泊る。食堂を兼ねたその宿を、リザという女性と、その娘のミミが切り盛りしていた。そこでレベッカは知恵遅れの青年、テディに出会う。彼は、退官した警察官、ラッシュ・グナーの息子であった。

 教会の関係者や町の人間と話すうちに、ミルドレッドは町の女性には頼りにされていたが、男性には疎まれていたことを知る。そもそも、町の男性の大多数が、『女性の聖職者』を認めていなかった。

 ミルドレッドはこの町に赴任すると、女性たちのために色々な活動を開始した。町のスポーツ施設を女性たちに開放し、女性だけの聖書研究会『マグダレーネ』を発足させた。また、家庭内暴力に悩む妻たちを助ける活動をした。夫から逃げてきた女性に、自分の家を開放した。そのため、家庭内暴力が原因で妻が家を出た夫たちの中には、ミルドレッドが妻に家出をそそのかしたと考え、恨む者もあった。

極め付けは、彼女が教会領の敷地に住み込んだ狼の保護運動を始めたことである。これにより、彼女は町の有力な組織である(それは男性ばかりの集まりなのであるが)『狩猟協会』をも敵に回すことになった。

 ミルドレッドの敵は、教会の外だけではなかった。新任の牧師もかつてミルドレッドと一緒に働いていたとき、彼女に人前で言い負かされて、彼女を嫌っていた。また、ミルドレッドはレスビアンであり、宿を経営するリザと恋愛関係にあった。しかし、ふたりの関係は最近しっくりとは行っていなかった・・・」

 

ラーソンの「語り」であるが、突然過去が現在の中に入り込む。読んでいて、ちょっとややこしい構造であった。殺されたミルドレッドが登場し、会話をし始める。それが、過去の出来事だと理解するまでに少し時間がかかる。ミルドレッドを巡る過去の出来事と、それが現在にもたらした帰結を、つなぎ目なしに描こうという作者の意図は分かるのだが、読んでいて少々混乱した。

主人公レベッカ・マルティンソンは税務弁護士で、一民間人である。世の中には、アガサ・クリスティーの「ミス・マーブル」シリーズのように、一介の民間人が事件を解決していく推理小説も多い。しかし、民間人が事件を解決するパターンは、偶然に頼らざるを得ないという難点がある。警察官ならともかく、そもそもひとりの民間人が、一生に何度も殺人事件に関与することなど、現実的にほぼあり得ないからだ。ラーソンの小説を読むと、その設定に、少々無理を感じる。作者は、前回の事件と今回の事件を絡めて、出来るだけ不自然さを除こうと努力しているのだが。

女性作家の作品と言いながら、

「ここまで男性を排除する必要があるのだろうか。」

と考えてしまう。殺された女性牧師のミルドレッドは男尊女卑のはびこるスウェーデンの田舎町に、徹底した女性の人権運動を繰り広げる。彼女は町の全ての男性を敵に回すが、それでも前に進む。ミルドレッドこそ、作者オーサ・ラーソンの分身ではないかと思ってしまった。

スウェーデンの小説は、中立的で、透明で、どの国の読者にも読み易く、それゆえに人気があると、前に書いた。しかし、この小説は、スウェーデンの文化と伝統の色が濃い。他国で受け入れられるかと、考えてしまう。しかし、実際、ラーソンのほぼ全作に、ドイツ語や英語で翻訳が出ていることが、彼女の小説の魅力の証明だろう。やはり、女性の読者が多いのだと思う。

 

レベッカ・マルティンソン・シリーズ

l  Solstorm(太陽の嵐)(2003年)

l  Det blod som spillts; (血の飛沫)(2004年)

l  Svart stig (黒い舞台)(2006年)

l  Till dess din vrede upphör (あなたの怒りが治まるまで)(2008年)

l  Till offer åt Molok(モロクの犠牲)(2011年)

 

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(1)    ウィキペディア、スウェーデン語版、「ÅsaLarsson」の項。

(2)    Weiße Nacht, C. Bertelsmann Verlag, München, 2006

 

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