シェル・エリクソン

Kjell Eriksson

作家、ウプサラ出身

1953年〜)

 

 

シェル・エリクソンに関する情報は何故か極端に少ない。ウィキペディアで調べても数行である。しかし、ドイツ語、英語への翻訳はあるし、「スウェーデン犯罪小説アカデミー賞」を受賞しているので、それなりに読まれ、人気を博した作家らしい。彼は一九五三年にウプサラで生まれ、毛沢東主義者であると同時に、何とガーデナー、庭師でもあったという。一九九九年より、ウプサラ警察に勤める女性刑事、アン・リンデルを主人公にする犯罪小説のシリーズを書き始め、二〇〇二年に発表された四作目「Prinsessan av Burundi(ブルンジのプリンセス)」でその年の「スウェーデン犯罪小説賞」を受賞している。(1

 

彼の一作、「Svarta lögner, rött blod(黒い嘘と赤い血)を読んだ。おそろしく登場人物が多い小説であった。(2

道路脇で死んでいた、ホームレスと思われる粗末な身なりの男。そして、十六歳の少女の失踪事件。その二つの事件をアン・リンデルは捜査している。そして、彼女の新しい恋人である自称ジャーナリスト、アンデルスがブラジルで見た奇妙な事件。この、一見かかわりのない三つの事件が、徐々に関連を持ち始める。

警察の捜査班員や、殺されたホームレスと、失踪した少女を巡る人々が多数登場する。しかも、誰もがスウェーデン人なので、ほとんど人物の名前が「〜ソン」で終わる。(オットーソン、フレデリクソン、ヨハンソン、アンダーソン、ニールソン、オロフソン・・・)そして登場人物に個性がない。正直に言って、私は登場人物を覚え切れなかった。

良く考えてみると、そもそも、現実の世界では、そんなに魅力と個性に溢れた人間ばかりがいるわけではない。はっきり言って、名前も覚えられない、没個性の人間の中で私たちは暮らしているわけだ。つまり、それが「現実」なのだろう。しかし、小説の中でそこまでリアリスティックにやられると、読んでいる方は面白くない。小説では多少誇張はあっても、個性のある人間を登場させてほしいと思った。ここまで地味だとちょっと興が冷める。

スウェーデンの犯罪小説で、女性が主人公になっているシリーズは、圧倒的に女性作家によるものが多い。作家アンネ・ホルトの「ハンネ・ヴィルヘルムソン」シリーズ、クリスティナ・オールソンの「フレドリカ・ベルイマン」シリーズ、カミラ・レックバリの描く「エリカ・ファルク」、ヘレネ・トゥルステンの「レーネ・フス」シリーズ、その他、オーサ・ラーソン、リザ・マークルンドと枚挙に暇がない。エリクソンの描く女性の主人公、アン。女性作家の描く女性主人公と、明らかにちょっと違う。アンが昨夜の恋人とのセックスを回顧する場面など、かなり直接的である。女性作家はそこまで書き込まないと思う。

しかし、エリクソンの謎解きの筋書きは面白い。小さな町ウプサラを舞台にしながら、スケールの大きさを感じさせ、閉塞感のないのはよい。

エリクソンの書いた「アン・リンデル」シリーズは、現在のところ以下の十冊である。

 

l  Den upplysta stigen (照らされた小道) (1999)

l  Jorden rämna (地球は落ちるかも)(2000)

l  Stenkistan (石の棺) (2001)

l  Prinsessan av Burundi (ブルンジの王女)(2002)

l  Nattskärran(尿瓶) (2003)

l  Nattens grymma stjärnor (残酷な夜の星)(2004)

l  Mannen från bergen(山から出て来た男) (2004)

l  Den hand som skälver (握手)(2007)

l  Svarta lögner, rött blod (黒い嘘と赤い血)(2008)

l  Öppen grav (開かれた墓)(2009)

 

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(1)  ウィキペディア、スウェーデン語版、「Kjell Eriksson」の項。

(2)  Schwarze Lūgenn, rotes Blut, Deutsche Taschenbuch Verlag, 2011, München