スヴェン・ヴェステルベリ

Sven Weterberg

1945年〜2018年)

作家

 

 

 スヴェン・ヴェステルベリは、自然描写に卓越している。犯罪小説なのであるから、そこまで凝らなくてもいいと思うのだが。それが、ヴェステルベリの作者としてのこだわりなのであろう。「沈黙するユダヤ人/Judinnans tystnad」(2000年)には各章の冒頭に必ず季節、天候についての描写が出てくる。(1

「春はまだ出番を待ち続けていた。その姿を現わせても良いころなのだが、五月は冷たい風で始まった。太陽も出るのを躊躇しているようであった・・・」(プロローグの冒頭)

全てがこの調子である。時には非常に詩的な表現もある。

 スヴェン・リーフ・ユリウス・ヴェステルベリ(Sven Leif Julius Westerberg)は一九四五年、スウェーデン南西部のヴェネルスボリ(Vänersborg)で生まれ、二〇一八年に亡くなっている。彼の最初の五冊はレナルト・ブラスク(Lennart Brask)を主人公にした、スパイ小説であった。ブラスクは軍事諜報機関の長として、国の安全のために働くという設定。ブラスクを主人公としたシリーズは一度中断したが、二〇一四年、彼の最後の小説として復活している。ウェステルベリは一九九九年より、女性の法廷心理鑑定者であるハナ・スコグホルム(Hanna Skogholm)を主人公にするシリーズを書き始めた。(2)法廷心理鑑定者というのは、被疑者の精神を鑑定し、裁判を受けるのに適切かどうかを判断するのが職務である。スパイ小説で人気を博した後、純文学や心理小説に移ると言うのは、ヤン・ギィユーが辿ったのと同じ道である。しかし、ヴェステルベリはギィユーとは異なり、寡作な人であった。彼は生涯で、十四冊の本を出版したにすぎない。彼は一九九九年に、ハナ・スコグホルム・シリーズの「神の恐ろしい不在/Guds fruktansvärda frånvaro」でスウェーデン推理作家アカデミー賞を受けている。

 読んでいて驚くのは、先ほども書いたが、恐ろしく繊細な、自然描写が出てくること。また、女性の主人公の心理を、女性作家が書いたように、丁寧に描き込んでいることである。女性刑事、女性弁護士、女性犯罪心理学者を主人公としたシリーズは、クリスティーナ・オールソン、リザ・マークルンド、ヘレナ・トゥルステンなど枚挙に暇がない。しかし、それらは全て、女性作家によるものだ。女性によるナレーションで物語を進めながら、違和感なく女性の視線でストーリーを語れる。そんなヴェステルベリは、写真からはちょっと想像できないが、かなり繊細で女性的な感性を持った人だったのではないかと想像する。

 二〇〇〇年に発表された、ハナ・スコグホルム・シリーズの「沈黙するユダヤ人」を読んだ。残念ながら、生涯で十四冊しか書かれなかったウェステルベリの作品は、わずか二冊しか英語とドイツ語の翻訳が出ていない。日本語訳はないと思われる。

ユダヤ人の老女エスターが、すれ違いざまに若い学生に発砲。学生は死亡する。彼女は逮捕され、警察の取り調べを受けるが、事件の核心に関する質問には沈黙する。また殺された学生との関係も警察は発見できない。警察は、法廷心理鑑定者であるハナに、エスターの精神鑑定を依頼してくる。ハナは辛抱強い会話を通じて、エスターの沈黙の原因と、発砲事件の全容に迫っていく。なかなかスリリングな展開で、読んでいて面白かった。この作品の遥か下のレベルの作品で、英語やドイツ語の翻訳の出ている本も沢山ある。その意味では、ヴェステルベリは、「流行、コマーシャリズムに乗り遅れた作家」ということが出来るかも知れない。

 

 

1Der Man mit dem blauen Schal. List Taschenbuch, Berlin, Germany, 2001

2)ウィキペディア、スウェーデン語版、「Sven Westerberg」の項。

 

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