魚料理

 

これから魚を焼きます。

 

さて、サン・ベネデット市場で買った、三匹の大きな魚の顛末であるが、その前に、その日の午後の話をしよう。その日の昼過ぎ、僕たちは別荘に戻る。市場で買って来たアサリを使って、息子が、昼食にスパゲティーボンゴレを作った。その後、少し休んだ後、午後四時ごろに、ビーチに出掛ける。風が強く、昨日までと比べると、格段に人が少ない。

「うわっ、普通に波が打ち寄せている。」

まず、それに驚く。昨日まで、地中海は池のように穏やかで、チャプンチャプンと小さな波が来るだけだった。琵琶湖なみ?いや、京都の広沢の池くらいの波だった。それが、今日は、一人前の、高さ五十センチから七十センチくらいの波が来ている。海に入ってみて、二度目のびっくり。

「うわっ、冷たい。」

昨日より、確実に五度は、水温が低いような気がする。おそらく、昨日までは、海の表面が、太陽の熱で温められていたのだろう。しかし、今日は、風と波のせいで、温かい表面の水と、冷たい下の方の水が混ざってしまった。それで、急に水温が低くなったのだと思う。

 ゾーイがボートに乗って海から観光をしたいと言うので、マユミが、貸しボート屋の青年と話をしている。

「天気予報によると、明日も風が強い。危ないから、明日もボートは出せない。早くて、明後日の水曜日かな。」

と青年は言った。ゾーイとマユミが相談をしているが、サルディニアを発つ前日の水曜日に、ボート観光をすることになったようだ。

 さて、その日の夜は、いよいよ、市場で買って来た魚の料理である。担当は・・・三枚おろしから、刺身まで、魚捌きのできるお父さん、つまり僕。しかし、今回は、三枚おろしも、刺身も関係がなくて、丸ごとオーブンで焼くという。買ってきた魚は、別荘に戻ると直ぐに、さっと塩をして、キッチンタオルに包んで冷蔵庫に入れ、身を締めておいた。ウロコと内臓は、魚屋のおじさんが取ってくれていた。オコゼ系の魚は、ひれが尖っているので、気をつけないと、手を傷つけてしまう。夕方になり、それを冷蔵庫から出し、腹に、ハーブとレモンを詰め、オリーブ油をたっぷりかけ、オーブンで焼く。

 魚が焼ける間に、同じく市場で買って来た、イカの料理にかかる。薄皮を剥き、内臓や、船のような形の骨を抜き、輪切りにして、リング揚げにする。ゲソも美味そう。その間に、ワタルが付け合わせのローストポテトを、マユミがサラダを作っている。

「すごいチームワークやね。」

と感心する。午後八時、バルコニーで夕食が始まる。昨日までと違って、涼しくてとても気持ちが良い。蚊も少ないような気がする。僕が、こんがり焼けた三匹の魚をテーブルに乗せると、歓声が挙がった。

 

できた〜!

 

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