卒業写真

 

同窓会でヨッチャンと、水泳部で一緒に泳いだ彼も今は外科のお医者さん。

 

月曜日、今日はトモコと朝食の約束をしていた。その後、従兄弟のFさんを訪れて、夕方はユーコと散歩をした後、食事をすることになっている。その合間を縫って、父の家の荷物の整理がある。何せ、たった五日間の京都滞在なので、予定を詰め込まないと、こなしていけないのだ。

朝起きて、トモコに指定された喫茶店に向かう。そこはトモコの娘、ユカの働く保育園の向いだった。昨夜は疲れてパタンと眠ったと思ったら、真夜中過ぎに目が覚め、その後眠れない。遅い時間に睡眠薬を飲んだので、まだ身体がフラフラしている。

トモコは小学校の先生だ。今日は月曜日。昨日が運動会で今日は代休なのだという。喫茶店に着くと、何故か、同級生のオオツカ爺もいた。彼は中学生の頃から頭に白髪があり、結構老けて見えた。それで何時の頃からか「爺」という尊称で呼ばれるようになったのだ。一昨日の同窓会で会って、皆老けてきているのに、唯一老けていない、いやかえって若返っているという印象を受けた彼。ユーコもそう感じて、

「オオツカ爺はブラピの世界。」

とコメントしていた。ブラッド・ピット主演の「ベンジャミン・バトンの数奇な人生」という映画があった。八十歳の姿で生まれた赤ん坊が、歳を取るにつれて、次第に若返っていくという話だ。オオツカ爺はあのモデルなのかも。

 ロンドンに戻って間もなく、山中伸弥さんがノーベル医学・生理学賞をもらうことになったというニュースが流れた。オオツカ爺は何と、ノーベル賞を受賞した山中伸弥さんと同じ大学の教授なのである。彼が何の研究をしているのかはよく知らないが、僕の同級生からノーベル賞の受賞者が出るとしたら、絶対彼だと思う。残念ながら、睡眠薬がまだ効いていた僕の頭は、トモコとオオツカ爺とそのとき何を話したか、よく覚えていない。

 その後、Fさんの家に立ち寄り、いつも継母がお世話になっているお礼を言う。家を売ることにした旨も伝える。

父の家に戻って、荷物の整理を続ける。今日は、二階の三畳間、かつての僕の部屋を片付ける。ティーン・エージャーの頃、ずっと過ごした思い出深い部屋だ。ドロドロとした当時の猥想がまだ残ってそうな部屋。子供の頃のアルバムや、学校の卒業アルバム、卒業証書と賞状、絵と書を除いて、残りは全て捨てることにする。ダンボール箱に入った手紙の束を捨てるかどうか、かなり迷った。しかし、

「ここ四十年必要なかったものは、一生必要ないや。」

そう自分に言い聞かせて、捨てることにした。

 中学校の卒業アルバムを開くと、一昨日のメンバーが十五歳で並んでいる。トモコもいる、オオツカ爺もいる、ユーコもいる、イズミもいる、ゲンシもいる、そして僕も。

「悲しいことがあると

開く皮の表紙

卒業写真のあの人は

優しい目をしてる」

この歌が自然に口をつく。

 

生母の家のある鞍馬口通、古い町家と新しい建物が混ざって建っている。