モトのモットー

 

これから記念写真。

 

一通り詩の解釈の話が終わった後、O先生の話は、先天的な病気のある生徒を連れての修学旅行の話になった。なかなか心を打つ話だった。

「授業」が終り。「ホームルーム」の時間になる。ホームルームなのに何故かビールとツマミが配られる。

「誰も話す相手がいなかったら、私達だけで話そうね。」

と心配していたユーコも、かつての同級生たちと楽しく話をしている。

「ホームルーム」のとき、僕はO先生の隣の席だった。僕はO先生の担任のクラスになったことはないが、先生のクラスの黒板の上に、「451」と大きく書いてあったことを思い出す。それは、

「四十五人の生徒の心はひとつ」

というO学級のモットーであったのだ。

「先生、じつは僕、あれを勝手に使わせていただいているです。」

僕はO先生に言った。

ロンドンの職場で、僕の率いるプロジェクトチームのモットーは

One for all, all for one.

つまり、「ひとりは全員のためにあり、全員はひとりのためにある」ということ。「ひとりは全員を理解し、全員はひとりを助け、それによってチームの団結は生まれる。」

それが会社での僕のモットー、つまり「モトのモットー」のナンバー・ワンなのだ。これはO先生から借用させてもらったもの。僕のチームは実に国際的であるが、英国人にも、中国人にも、インド人にも、ケニア人にも、このモットーは分かり易いらしく、皆よく理解してくれる。

「勝手に使わせていただているのに、お礼が遅くなって。」

僕はO先生に言った。先生もまんざらでもなさそう。

「授業」が済み、「給食」の時間。大徳寺の寿司屋まで歩いて移動する。ユーコが腕を組んできた。欧米に住んでいる人って、別に深い関係でなくてもハグとかキスは平気でするし、男女も腕を組んで歩く。うちの娘だって、二十歳を過ぎているが、僕と歩くときは手をつないでくる。でも、日本ではちょっと変だよね。ユーコと手を組んでいるのを見ている周りの人間には、

「僕ら『出来て』まんねん。」

と言っておく。

会話が続くだろうか、なんていう心配は杞憂に終わる。相手の顔を見ると、昔の光景がパッと浮かんでくるのだ。ダルサンとこの前会ったのは、彼に最初の子供が生まれ、僕が大学院に入った年だった。だから三十二年前。

「マメマツとゲンシと一緒に、夜中に『子供見せろ』言うてダルサンの家に押しかけたよな。」

僕は躊躇なく言う。実際、その時の光景が鮮明に蘇るのだ。

 

皆、楽しそうで顔が活き活きしている。

 

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