発想の転換

 

死んだ者も生きている者も一緒に「民衆の歌」を歌いながらのフィナーレ。

 

命を取りとめたマリウスだが、仲間が全て死んだ中で自分だけが生き残ったことに自責の念に駆られる。コゼットは彼を慰め、ずっと彼の傍にいることを誓う。ヴァルジャンはマリウスを訪れ、これまでの自分の生きてきた道を告白し、コゼットの今後をマリウスに託する。しかし、時が来るまでコゼットには真相は言わないでくれと頼む。

マリウスとコゼットの結婚式が挙行される。ふたりに気を遣ったヴァルジャンは出席していない。そこへ貴族を装って、テナルディエ夫妻が入ってくる。彼らは、

「あんたの義父は人殺しだ。」

とマリウスに言い寄る。そして、ヴァルジャンが蜂起の際死者から金目の物を盗み取っていたと告げ口をする。その証拠としてテナルディエがマリウスに見せた指輪は、何とマリウス自身のものであった。それにより、マリウスは、負傷した自分を救ってくれたのが、ヴァルジャンであることを知る。マリウスはテナルディエを殴り倒し、ヴァルジャンの元に急ぐ。

健康を害したヴァルジャンは、自分の死の近いことを悟っていた。そこへマリウスとコゼットが入ってくる。ヴァルジャンはコゼットに自分のこれまでの生い立ちを書いた書面を渡す。そこへ亡くなったファンティーヌとエポニーヌが登場する。ヴァルジャンはその死者たちの方へ向かって歩いていく。蜂起に加わり亡くなった仲間達もそこに現われる。ヴァルジャンがその死者達の列に加わり、フィナーレとなる。死んだ者たちも、これから生きていく者たちも、一緒に「民衆の歌」(Do You Hear the People Sing?)を歌う。そして、観客たちは、その歌を口ずさみながら家路につくことになるのだ。 僕も、

Do You Hear the People Sing?

と小声で歌いながら、劇場を後にした。

バリケード、地下の下水道、色々な場面がほんの数秒間の暗転だけで展開する。地下のシーンなどは、鉄の格子を通して差し込む光だけで表現されているが、それなりの臨場感があるのはさすがだ。

感心したのは、ジャヴェールが河に飛び込み自殺するシーン。飛び込む直前に彼は橋の欄干の傍に立っている。彼は欄干を乗り越え身を躍らせる。すると橋がスーと上に上がっていったのである。舞台の上なので当然人はそれより下へ行けない。それで相対的に橋が上がったのだ。実際、橋から落ちていく人の目からはそう見えるわけだし。なかなかの発想の転換。

「なるほどねえ。」

と僕はこれには感心した。

最後、死者を登場させて、ヴァルジャンがそこに参加することで、彼の死を暗示することは、なかなか良い演出だと思った。その死者を巡る思い出が、観客の頭に蘇り、心を打った。

 

最後のシーンで、「父」ヴァルジャンが書いた「遺書」を読むコゼット。バックでは死者たちが歌う。