回る舞台

 

塀を乗り越えてコゼットに会いに行くマリウス。

 

更に九年の月日が過ぎた。王政が復活した七月革命の後のパリは騒然としていた。それまで政府の中で唯一貧乏人に対する理解を示していたラマルク将軍が死の床にあったのだ。孤児のガブローシュは乞食や売春婦の間で生きていた。また学生のマリウスやアンジョルラスは、今後の民衆をどのように革命に組織していくかを論じていた。一言で述べると、パリは革命前夜という様相を呈していた。

テナルディエ夫妻と娘のエポニーヌは町のチンピラを組織して盗みを行っていた。エポニーヌは街で出会ったマリウスが好きになり、マリウスは街で出会った美しく成長したコゼットに一目惚れする。テナルディエは街で金を持っていそうな紳士から盗みを働こうとして刑事ジャヴェールに捕まる。テナルディエは自分が狙った相手が九年前コゼットを連れ去った男であることを知る。またジャヴェールは、ヴァルジャンが街にパリの街にいることを知る。

マリウスは、エポニーヌを使って、コゼットの居所を確かめ、彼女と連絡を取ろうとする。マリウスを愛するエポニーヌは、複雑な気持ちではあったが、マリウスから頼まれたままに行動する。コゼットの居所を知ったマリウスは、ある夜、塀を乗り越えてコゼットの住む屋敷に侵入、彼女に自分の愛を告げる。

ラマルク将軍が亡くなり、いよいよ蜂起した民衆と、政府軍の衝突が避けられない事態となる。(一八三二年の六月暴動である。)人々は町にバリケードを築き始める。ジャヴェールに居所を知られたことにより、一度はコゼットを連れてパリから逃げ出そうと考えたヴァルジャンだが、思い直しパリに留まる。

以上が、第一幕の粗筋なのだが(あくまでミュージカルの舞台の粗筋で、原作とは違っていることはご理解いただきたい)、十七年間に渡る、これだけ複雑なストーリーをたった九十分の間に演じてしまうのは凄い。従って、歌を除けば、ひとつの場面がものすごく短い。数分の場面の中、時には数十秒の場面の連続。そして、その中で、それまで起こったこと、今から起こっていること、これから起こりそうなことが、凝縮して語られる。見ている方は、息をつく暇もないのでちょっと疲れる。

普通の会話はなく、台詞も全てメロディーに乗って語られる。フランス語からの翻訳とは思えないくらい、メロディーと英語がピッタリと合っている。翻訳者の苦労が偲ばれる。

舞台が実にクルクルと良く回る。先ほども述べたが、ここクイーンズ劇場は、もともと奥行きはあるが幅のない舞台、そのままではどうしても「狭さ」を感じさせてしまう。普通に歩くと、あっと言う間に端から端へと達してしまうだろう。こんなとき、舞台を回すことにより、人物は歩いているけど、観客から見ると舞台の同じ場所に留まったままという芸当ができる。また、逆に、舞台をその上の人々の動きと同じ方向に回すことにより、スピード感が増す効果が得られる。要するに、狭い舞台を広く使うために回り舞台が効果的に使われているのだ。

 

休憩時間、僕の座った席から舞台を見下ろす。

 

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