残されたマスク

 

あっさりとしたカーテンコール。

 

「舞台の上でクリスティーンと一緒にいるのは『怪人』だ。」

と皆が気付き、警官は彼に向かって発砲する。「怪人」はクリスティーンを連れ、地下の自分の棲家へと逃れる。ラウルと警官隊がそれを追う。

地下の棲家に辿り着いた怪人は、クリスティーンにウェディングドレスを着せ、自分と一緒に住むことを強制する。そこにラウルが現れる。しかし、怪人の罠にはまり、首にロープを巻きつけられ、吊れ下げられる。

怪人は自分と永遠に一緒にいることを誓えば、ラウルを助けるとクリスティーンに告げる。クリスティーンは、ラウルを助けるために、それを受け入れ怪人にキスをする。怪人は、その心に打たれ、ふたりを助け、去るように命じる。ふたりは去る。怪人はマントをかぶって身体を横たえる。

追手が怪人の隠れ家にたどり着く。怪人の隠れているマントを持ち上げるとそこには、引田天巧の手品のように怪人の姿はなく、白いマスクだけが残されていた。

そして、その後はカーテンコール。最近はカーテンコールが一種のショーのようになっている場合も多いが、出演者が次々と現れお辞儀をし、最後に全員が手を繋いで客に挨拶するという、極めてあっさりとしたものであった。

僕は劇場を出て、家路に就く。豪華絢爛な舞台であるが、常にどこか暗いイメージが付きまとっていた。まあ、オペラ座の「地下」に巣食う「怪人」の話なのだから、それは仕方がないとしよう。

「天井桟敷」に座っている僕は、観客の中では舞台から一番遠い場所にいた。しかし、物理的な距離もさることながら、舞台と精神的な距離を感じた。確かに盛り沢山のミュージカルであるが、「レ・ミゼラブル」のように人間の躍動感が伝わって来ない。どこか、遠いところで演じられているような気がしていた。次回、もしこのミュージカルをもう一度見るチャンスがあれば、もう少し金を張り込み、舞台に近い席で見たいものである。

僕の座席の周辺は、外国からロンドンを訪れた観光客ばかりだった。外国語を話しているか、英語を話していても、明らかに米国かカナダのアクセントの人が多かった。また、中国人も多かった。ここはロンドンの観光名所のひとつなのだ。二十五年間も上演が続けられるのは、毎晩観光客が入れ替わり立ち替わり見に来てくれるからなのだろう。

涼しい日の多かった八月にしては、珍しい暖かい夜だった。僕はウェストエンドの夜の雑踏を潜り抜けながら、レスタースクエア駅へと急いだ。

 

芝居の跳ねた劇場を後にして家路に就く。