KL到着

 

格安のわりには結構まともなバスだった。

 

トイレを済ませて旅行社の前に来ると、バスが停まっている。結構立派なバスでびっくり。トイレはないものの、中の席はゆったりしている。横三列の座席がほとんどフラットになるくらいリクライニングする。飛行機で言うと、ビジネスクラスの座席だ。

バスは七、八人の客を乗せて八時にコムターを出発。ジョージタウンの旧市街で白人の観光客を乗せ、最後は満員でペナンを出発した。結構色々な場所に寄ってから島を離れるので、島と本土を結ぶ橋を渡ったときには九時を過ぎていた。

シンガポールやインドで、バスや電車の冷房がすごく効いているのを知っていた僕は、その日、ジーンズに厚手のジャケットを着込んでいた。しかし、バスの中は予想を超える寒さ。手足が冷たくなってくる。その中で、隣のマレーシア人の女性は、Tシャツとショートパンツ姿で、リクライニングシートを一杯に倒してグーグー眠っている。暑さにも寒さにも強い、恐るべき人達。

バスは本土に入ると直ぐに高速道路に乗り、ゴムのプランテーションの間をひたすら南へ向かって走る。高速道路沿いの看板はほとんど日本企業のものだ。ペナンからKLまでは三百五十キロ。五時間の予定と聞いている。

ジェイソンが何時までペナンで働くか分からないが、チズコ一家もいずれはペナンを離れるわけだ。そうすると、もうペナンを訪れる機会は一生のうちにないだろう。余りに色々なことがあり過ぎて、ロンドンを出発したのが十日余り前であることが、信じられなくなる。随分遠い昔のような気がする。

バスの中が寒いので、トイレに行きたくなってきた。しかし、バスが休憩所で停まる気配はない。出発して三時間半後にやっとトイレ休憩。トイレで用を足す。膀胱が軽くなると、気持ちも軽くなる。

KLが近付くと車が増え、渋滞になりだしたが、午後一時過ぎ、KLセントラル(中央駅)にバスは到着した。

観光案内所でホテルのある位置を教えてもらい、駅のすぐ近くの一泊百八リギットという安ホテルに荷物を置く。窓のない、監獄のような部屋だ。どうせ一泊するだけなんだからと思うが、窓がないだけに閉所恐怖症の僕にはちょっと心配。

駅の階段を上がるとき、息が切れた。心配になって、心臓の脈拍を診ると、脈は正常。僕は朝トーストを一枚食べただけで、しかもトイレに行かないようにするため水も飲んでいないことに気付く。息が切れるのは、低血糖と脱水症状らしい。

KLの暑さは、ペナンの暑さと違う。ペナンは海に近く、気温が高くても海からの風が吹いて心地よかったが、KLの暑さは都会の暑さ、ねっとりとした夏の東京の暑さだ。

とにかく、何か飲もうと思い、ホテルの横のコーヒーショップでアイスティーを飲む。その後、中央駅に行き、何かを食べようとするが、マクドナルド以外、食べる場所がない。

「何でマレーシアまで来てマクドを食わなあかんねん。」

と自分で自分に文句を言いながら、フィッシュバーガーとフライドポテトを食う。

 

ペナン島と本土を結ぶ、全長十二キロの長大なペナン・ブリッジ。