ティータリク選手権

 

朝食後、ジェイソンがローストランチの準備を始める。

 

朝食後、オリバーがジェイソンからもらった「ミスター・ビーン」のDVDを見ている。二十年前くらいのテレビ番組。主演のローワン・アトキンソンが若い。ちょうどクリスマスのエピソード。ミスター・ビーンも、部屋に紐を張り、そこに洗濯物のようにクリスマスカードを掛けている。それが映っているテレビの上には、同じようにクリスマスカードが紐に掛かっていた。

英国ではクリスマスは「ローストランチ」を食べるのが伝統。つまり、ニワトリ、ガチョウ、七面鳥などをオーブンで焼くのだ。ちなみに、我が家では毎年ガチョウを焼いている。

今日はジェイソンがそのローストランチを作る係。彼は朝食後、早速支度を始めた。しばらくしてオーブンの中を見ると、大きな豚肉の塊がジリジリと焼けてきている。

「美味しそう。」

「野菜を買いにウェット・マーケットに行くけど、モトも一緒に来る?」

とチズコが誘う。一も二もなくついて行く。オリバーも一緒に来た。

「でも、クリスマスなのにマーケットが開いているの。」

と僕は尋ねる。英国では、クリスマスには店はおろか、地下鉄さえ止まってしまうのだ。

「ここは『何でもあり』の国だって、昨日言ったでしょ。」

とチズコ。

マーケットに行く途中、

「ティータリク飲んで行く?」

とチズコが聞く。

「ええ、何?体たらく?」

何か分からないままに屋台のコーヒーショップに入る。オリバーは辺りにいるニワトリと遊んでいる。

ティータリクというのは、コンデンスミルクで入れた紅茶だった。作る人は両手で二つの器を持ち、ひとつの器から、滝のようにもう一つの器に移す。落差一メートル以上。その間にコンデンスミルクと茶が良く混ざり、きれいな泡が立つ。出された茶を見ると、ギネスビールのようなきめ細かい泡が立っていた。これがなかなか難しいらしい。名人芸を競う、ティータリク作りのマレーシア選手権なんてものがあるらしい。

このお茶、「お持ち帰り」も出来るのだが、スターバックスのような紙コップではない。ビニール袋なのだ。金魚すくいの金魚を持って帰るように、紅茶をビニール袋に入れて持って帰る。

マーケットに着く。今日も道が混んでおり、車を停める場所を見つけるためにチズコが何度も辺りを周回する。車を停めてマーケットの中へ。野菜から、魚、基本的には何でも売っており、賑わっている。屋根はあるけど、壁はないという典型的熱帯の市場であった。

 

ビールのように綺麗な泡が立ったティータリク。