ハムハサムニカ

 

八坂神社にかかる月。月も朧(おぼろ)に東山〜。

 

祇園会館の前で、イズミ、サクラ、ユメ、三人の「きれいどころ」と会う。これにマユミを加えると女性が四人に男は僕ひとり。「両手両足に花」という、なかなか結構な夜になりそうだ。ユメは夏に、ロンドンの我が家でホームステイをしていた。それで、今回の食事への誘いは、

「夏の間、ユメがお世話になってありがとう。」

という意味合いらしい。ユメの滞在中、僕は仕事をしていたので、ユメの相手をしていたのは、もっぱらマユミと子供達だ。と言うことで、今夜の主役はあくまでマユミのようだ。京都に着いて以来、結婚式出席を除いてずっとインフルエンザで寝ていたマユミだが、今日の午後からは、何とか起きていた。

サクラが連れて行ってくれたのは、祇園会館の横の小路を少し入った、十席くらいのカウンターだけで満員になる割烹の店、「丸一」であった。雑居ビルの間にある小さな店、ちょっと若い頃の桂小金治に似たマスターと、幾つか年長の渋皮の向けたお姉さんのふたりが切り盛りをしている。サクラの「行きつけ」の店らしく、今日は定休日のところを、僕達の「会合」のために特別に開いていただいているということだった。奥まっていて、普通に道を歩いていて、

「腹がへったなあ。」

と、一見(いちげん)で飛び込める雰囲気の店ではない。

このメンバーでカウンターに座ると、先ほども書いたが、四人の女性に僕一人。今日はおまけに若い娘さんが一人混ざっているので、なかなか華やかだ。マスターも面白い人、料理の手を動かしながら、口もよく動く。

「この前、韓国の人がハムサンド作ってくれ、と言うたんですよ。」

「ふーん、よく分かりましたね。」

「ハムハサムミニカ。」

大笑い。

「そのうち、雨がふってきたんで、言うてあげました。」

「カササセヨ。」

韓国人とお付き合いの多いサクラもいっぱい笑っていたので、問題ないでしょう。

料理はどれも、シンプルで、美味しい。「付け出し」に出た、アンキモ、タラコと野菜の煮付けも、それ以上味を濃くすると本来の味が損なわれるギリギリのところ、紙一重で止まっている感じ。コノワタ入りの茶碗蒸し、赤身ながら油が醤油に垂れないあっさりした刺身、懐かしい冬の味のする蕪蒸し等々。

マスターの「モットー」は、「味は素材で決まる」ということだそうだ。どの料理も、その意気込みを感じさせるものだった。また。料理の薀蓄(うんちく)を色々聞かせてもらいながら観察しているのも、とても参考になる。

 

四人の「きれいどころ」に囲まれて、楽しい夜。